西洋人のおかしな人生観がデフォルトになった近代
大澤:研究者が箱の中の物を取るという行為をチンパンジーと人間の赤ちゃんに見せて、どの程度模倣するかという実験をしました。
この時に、研究者はただ物を取るのではなく、口で挟んで物を箱から取り出すという行為を見せました。すると、チンパンジーはそんな無意味な行為はせずに、ただ箱の中に手を入れて物を掴み出すのに対して、人間の赤ちゃんはわざわざ口で挟んで取り出すという無意味で複雑な行為まで真似しました。
人間は真似すること自体に快楽を覚えるのです。累積的文化を可能にしているのは異様なまでの模倣衝動にあります。
第4章は「5000年」です。いよいよホモサピエンスを抜けて人間の歴史に入っていきます。
ここでは不平等という問題を取り上げています。以前、この本紹介のコーナーで、デヴィッド・グレーバーとデヴィッド・ウェングロウが書いた『万物の黎明』を取り上げましたが、ここでもその本が参照されています。
──人類が大きく発展した要因は農業革命だったという考え方を否定した大著ですね。
大澤:とはいえ、グレーバーたちの意図からはやや異なる理解で、ザウアーは文明が構築される過程を説明しています。農業革命があったかどうかはさておき、結果的に都市が出現し、やがて帝国になり、職業の分業が起こり、集めた富が一部の人に収奪されて、不平等が発生したという説明です。
権力者が税を徴収するので不平等が発生する。では、なぜ税を徴収するシステムが成り立つのか。特別に強い軍事力を持つグループが出現して他の人たちを支配したからだという説明になりがちですが、なぜそのグループは強い軍事力を持てたのかを説明しなければなりません。循環論法になってしまい、この部分も上手く説明できていないという印象があります。
第5章は「500年」です。ここでは近代化という現象について書いています。
この章はアメリカの人類学者であるジョセフ・ヘンリックの研究に依存しながら説明しています。ヘンリックは『WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理』という本を出しています。「WEIRD」というのは巧みな造語です。
これは「西洋の(Western)」「教育を受けた(Educated)」「工業化された(Industrialized)」「豊かで(Rich)」「民主的な(Democratic)背景を持つ人々」という単語の頭文字を組んで構成した造語です。
もともと英語には「奇妙な」や「おかしな」という意味の「weird」という単語があります。近代は、西洋人のおかしな人生観が普遍化し、デフォルトになった時代です。
WEIRDな人々のどこが変なのか。それは、彼らが世界を「独立した個人の集合」として捉えている点です。