こうした調停を巡る摩擦は、サラリーキャップ論争とも無縁ではない。オーナー側から見れば、調停制度が際限なく膨張すれば、キャップ導入の必要性はさらに高まる。一方で選手会にとっては、調停は市場原理が部分的に反映される貴重な場であり、これを抑え込まれることは二重の制約を意味する。
問題が深刻なのは、こうした議論が「条件交渉」の域をすでに越えている点にある。どちらの主張も、部分的な修正や暫定措置で収まる性質のものではない。オーナー側がキャップ構想を引っ込めれば、構造的な不満は解消されない。一方で、選手会が譲歩すれば、MLBの根幹を揺るがしかねないという危機感が残る。
1994年の悪夢
過去を振り返れば、同様の緊張がどのような結末を迎えたかは明らかだ。1994年のMLB労使対立では交渉の行き詰まりが、同年8月12日から翌1995年4月2日までの232日間にわたるプロスポーツ史上最長のストライキへの突入を招いた。
最終的には1994年のワールドシリーズそのものが消滅し、当時のビル・クリントン米国大統領が介入するなど“歴史的国難”にまで発展。ファン離れは深刻で、リーグが信頼を取り戻すまでには長い時間を要した。この記憶は、いまも球界関係者の間で生々しく共有されている。現行の団体交渉協定(CBA)は2026年12月に失効する。
それでもなお、今回の交渉では楽観論が聞こえてこない。むしろ、交渉開始前から「長期化」や「ロックアウト」を織り込んだ準備が進められているという見方が支配的だ。これは交渉戦術というより、双方が譲らない前提で臨んでいる証左でもある。