ストライキが現実になればスポーツ産業全体に甚大なダメージ
その影響を象徴的に受ける存在が、ドジャースの大谷翔平だ。MLBが国際的な競技へと変貌する過程で、大谷は単なるスター選手を超え「リーグの顔」として機能してきた。放送権、スポンサー契約、国際市場――。その多くが、大谷という存在を軸に回っている。
米国のスポーツビジネスに精通する大手エージェンシーの関係者は「皮肉な状況だ」と語った上で「いまMLBが世界規模で注目を集めている最大の理由が大谷だ。その大谷が、労使対立によって2027年シーズンのグラウンドに立てなくなるとしたら、リーグにとって計算不能な損失になる」と指摘。選手個人の問題にとどまらず、産業全体に波及するという見方だ。
有力OBたちも、不安を隠さない。ニューヨーク・ヤンキースなどで活躍したレジェンドで現野球解説者のアレックス・ロドリゲス氏も米スポーツ専門局「ESPN」の番組内で今年末にロックアウトの危険性が高まっていることに「ファンがまた同じ思いをするのかと思うと、正直ぞっとする」と本音を述べ、さらに「1990年代のストライキを知っている世代として、あの時の空気は忘れられない。今回は、それ以上に大きなものを失うかもしれない」と警鐘を鳴らした。過去の記憶が、今の緊張感をより強めている。
放送業界からも警戒の声が上がる。前出ESPNに属し、西海岸の複数球団でビートライター(番記者)を務める1人は「2027年は大谷の全盛期と重なる」と指摘し、さらに「もしシーズンが失われれば、視聴者だけでなく、広告主やスポンサーとの関係にも大きな影響が出る。MLBが積み上げてきた国際的価値が、一気に揺らぐ可能性がある」。これは脅しではなく、冷静な損益計算に基づいた見立てだ。
大谷自身は公の場で労使問題について語ることはない。しかし、その沈黙が示しているのは個人の力ではどうにもならない構造的問題の重さでもある。2027年の大谷は、投打ともにキャリアの円熟期に差し掛かる。その姿が当たり前のように見られる保証は、もはやどこにもない。
ストーブリーグの熱狂が最高潮に達している今だからこそ、この危機は見えにくい。だが、補強ラッシュの裏側で、MLBは確実に分岐点へと近づいている。史上最高の戦力、史上最高の注目度。そのすべてが整ったその先に待つのが、シーズン消失という悪夢であってはならない。
2027年、大谷翔平がグラウンドに立っているかどうか。その答えは、バットやボールではなく、交渉の行方に委ねられている。MLBは今、栄光と停滞の境界線に立たされている。