墓じまいに踏み切った鍋島家の場合

 徳川慶喜家の事例が示すように、歴史上の著名人の墓であっても、維持管理の困難さから「墓じまい」が検討されるケースが増えている。

 例えば、旧佐賀藩主の鍋島家がそうだ。

 鍋島家の史料管理等を担う公益財団法人・鍋島報效会によれば2018年、東京・青山霊園内の鍋島家墓所を東京都に返還し、佐賀市の春日御墓所へ改葬したという。同会は「時代の推移とともに東京での墓参や管理が次第に困難となった」としている。

 特に、個人が管理する墓の場合、高齢化や人口減少、経済的負担などの問題が重くのしかかる。では、どのような対策が考えられるだろうか。

 まず、今回の慶喜の墓所のように、歴史的に関連のある宗教法人への管理権の移譲が挙げられる。慶喜を祭神とする上野東照宮への移管は、歴史的な文脈においても自然な選択といえる。慶喜のケースは幸運であった。公的機関の移譲については、政教分離の観点からハードルは高い。

 墓を公的保護の対象とするには、文化財への指定が欠かせない。歴史的価値の高い墓所については、国や自治体が文化財に組み込み、積極的に保護・管理に関与する仕組みが必要だろう。

 同時に、デジタルアーカイブ化による記録の保存は必須である。物理的に墓所の維持が困難になっても、その歴史的意義や文化的価値をデジタルデータとして後世に残すことができる。

 徳川慶喜の墓問題は、歴史的遺産を個人の財産から社会の財産へと移行させる、新しい文化継承のあり方を示したものといえるだろう。偉人の「墓じまい」は今後、ますます増えていくことが予想される。後世に伝えていくためには、社会全体で支える仕組みづくりが急務だ。

鵜飼秀徳(うかい・ひでのり)
作家・正覚寺住職・大正大学招聘教授
1974年、京都市嵯峨の正覚寺に生まれる。新聞記者・雑誌編集者を経て2018年1月に独立。現在、正覚寺住職を務める傍ら、「宗教と社会」をテーマに取材、執筆を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』『仏教の大東亜戦争』(いずれも文春新書)、『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)、『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)、『ニッポン珍供養』(集英社インターナショナル)など多数。大正大学招聘教授、東京農業大学非常勤講師、佛教大学非常勤講師、一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事。公益財団法人日本宗教連盟、公益財団法人全日本仏教会などで有識者委員を務める。