今回の第3回大会の実行委員長は、バイオメカニクス・心理学・生理学の分野を跨いだ学際的なスポーツ科学を研究している広島大学の進矢正宏准教授。
「毎年、違う先生が実行委員長になって運営してこられましたが、今回は私の研究分野の運動制御やアナリティクスの研究を紹介するとともに、若い人に野球科学の楽しみをアピールしたいと思いました。
座長を務める進矢正宏・広島大准教授(筆者撮影)
私自身は、本格的な野球選手の経験はなくて、野球が好きで、ただ面白いから野球の研究を続けてきたんです。音楽を聴いて愉しむような感じで研究してきました。
研究のためにはもちろん研鑽を積むことが大事ですが、同時に『野球学を面白がる』という姿勢も大事ではないでしょうか。
これからの野球に必要なのは『多様性』だと思っています。甲子園を目指します、みたいなストイックな野球だけでは広がりがない。
野球のサイエンスに関しても、プレーの役に立ちたい、うまくなりたいだけでなく、様々な目的、動機で研究する人が増えて、拡がっていけばいいと思います」
柔らかな表情で、進矢准教授はこのように語った。
野球学会立ち上げの契機は「経験と勘だのみ」の指導現場に対する危機感
学会の成り立ちについて、仙台大学の宮西智久教授(スポーツバイオメカニクス)は次のように振り返る。
仙台大学の宮西智久教授(筆者撮影)
「日本野球学会(旧名:日本野球科学研究会)は、私と松尾知之先生(大阪大学准教授、スポーツバイオメカニクス)が構想を抱いて、2013年7月に開催された同研究会第1回大会前の発起人会で東京大学の平野裕一先生に運営委員会代表になっていただくようにお願いしたのが始まりです。中京大学の桜井伸二先生(教授、前日本バイオメカニクス学会会長)や筑波大学の川村卓先生(教授、現日本野球学会会長)などにも声を掛け、発起人になっていただきました」
ここで名前の挙がった平野裕一氏は、1981年春のリーグ戦の初週で法政に勝利し、創部以来、初めて早慶から同一シーズンで勝ち点を挙げた「赤門旋風」時の東大監督で、東大教育学部助教授、国立スポーツ科学センター副センター長、法大スポーツ健康学部長を歴任。野球を中心としたバイオメカニクス、トレーニング科学分野をリードしてきた人物である。
「当時、私たちが抱いていたのは、こんなに野球が盛んなのに、野球科学が現場に全然浸透していないということへの危機感です。現場の指導者はいまだに経験と勘で指導している。選手に暴力暴言を浴びせかけている。そうではなくて科学的な思考で野球を学ぼうと研究者に声をかけたんです。2013年のことでした。少し遅すぎたとは思います」(宮西氏)