もちろん、その際には、台湾自身だけでなく、日米がコミットした場合には、米軍や自衛隊にも大きな被害が出ます。しかし、警察がテロリストに対処する場合は、たとえ警察に被害が出たとしても、テロを成功させないことが最重要であることと同様に、侵略者に侵略の果実を与えないことが重要です。

 中国、というより習近平は、台湾統一を目論んでいるといわれます。このマトリクス図の下段を考えている可能性が高いと思われますが、それが不可能であれば上段の限定侵攻もあり得るかもしれません。

 ですが、やはり読者としても気になるのは、下段の海上封鎖か着上陸を含む直接侵攻でしょう。

 中国の立場で考えれば、台湾への着上陸作戦以上に、台湾国民の心を折ることを狙いとする海上封鎖の方が、作戦が成功する可能性が高いといえます。

 ただし、それでも台湾側にアメリカと日本がついた場合、中国の作戦は失敗に終わる可能性が高いでしょう。

最後に~台湾有事は既に始まっている

 こうした分析、シミュレーションは、実施した人、団体によって細部は異なってきます。また、同じ実施団体であっても、情勢に応じて刻々と変化します。前掲のCSISのシミュレーションにしても、実施されたのは2023年で、2年が経過した現在、同じことが行われれば細部は違っているはずです。

 しかし、マトリクス図で、起こり得る危機全体の傾向を示した場合、実施団体や時間経過があっても、その結論部分はそれほど異なりません。今回、マトリクス図を用いたのは、そうした理由もあります。

 侵略により台湾の統一を目指す中国としては、作戦を成功させるため、何よりもアメリカ、そして日本の関与を排除したいのです。中国が強硬に反発し、「自衛隊は中国軍に勝てない」との言説がSNSなどで拡散されるのは、日本の世論に影響を与え、台湾有事に日本が関わることを阻止するためなのです。

 この観点でいえば、台湾有事は既に始まっています。