“台湾有事”の考え方

 では、“台湾有事”をどのように考えるべきでしょうか?

 こうした話題で取り上げられる機会が多いのは、やはり2023年にアメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)がまとめたシミュレーションを基にしたレポートです。

 しかし、このレポートは、アメリカの中長期的な対台湾、対中政策を考えるために作成されたもので、小さな紛争レベルのものから、東アジア大戦と呼ぶべき、核兵器の使用さえ懸念される烈度の高いものまで含まれたものでした。

 ここで、そのような極端なものを示すことは不適切です。

 ロシアは、ウクライナを侵略しつつ、日本や欧米などの対ロシア制裁を科している国とさえ貿易を続けています。中国とて、内需だけで国を回すことは不可能、それどころか、むしろ中国経済は貿易に依存する部分が多く、在日米軍基地を直接攻撃するような事態は蓋然性が高いとはいえないでしょう。

 そのため、本稿では、大陸に近い台湾領の島、金門、馬祖だけの占領を企図した作戦が行われるケースから、高強度だが蓋然性がある程度高いとみられている海上封鎖、さらには台湾本島への着上陸までが行われる作戦を考えてみたいと思います。

 また、戦闘の主体としては、中国側は「中国単独のケース」と「北朝鮮およびロシアがつくケース」、台湾側は「台湾単独のケース」と「アメリカおよび日本がつくケース」を考えてみます。

 事態としては戦域が台湾周辺に限られるものとし、日本や在日米軍基地への攻撃を想定したものを入れていません。これは、そうした攻撃が行われ、東アジア大戦のような事態となることは、コントロール不可能なエスカレーションが生じない限り、あまり現実的ではないためです。