社会の「おもてなし」機運が薄れる
民泊をめぐっては、近隣住民の反発も強まってきました。止まらぬ円安を背景に「安い日本」を目指す外国人観光客は、依然として増加。この11 月も単月で351万人(前年同月比10.4%増)を数え、今年1〜11月の累計では3906万人となりました。年間で過去最高だった2024年の3687万人をすでに上回っており、史上初の4000万人突破は確実です。
そうした中、外国人観光客をめぐるトラブルも増えてきました。民泊に関しても「静かな住宅街を外国人が集団でうろつくのは不安」「ルールも道徳も守らず、夜中も大騒ぎする」「部屋や周辺を散らかし放題にして出ていく」といった苦情が絶えません。
民泊施設の多い東京23区や大阪市では、「民泊反対」を訴える看板が施設周辺で目立つようにもなってきました。「おもてなし」の心でインバウンド客を歓迎しようという雰囲気は、すでに社会全体から次第に薄れているようです。
各自治体もこれまでの姿勢を転換し、民泊施設には厳しい姿勢を打ち出すようになってきました。
「特区民泊」が集中する大阪市はこの10月、新規の受け付けを来年2026年5月29日で終了することを決定しました。大阪府域の特区を管轄する大阪府もこれに追随し、新規開設を認めない方針です。大阪市の横山英幸市長は「国は観光立国で年間6000万人を目指している。特区民泊が大きく寄与しているが、住民の不安や心配も大きく、規制強化が必要だ」と指摘。「今は再開、廃止を議論できる段階ではない。まずは営業している民泊を適切に監視・指導し、必要な制度改正を行うことに集中したい」と危機感をあらわにしています。
東京23区も規制強化に舵を切り始めました。
ターミナルの池袋を抱える豊島区は12月、民泊改正条例を施行しました。改正条例は営業可能な日数を現行の年間180日からさらに制限し、春・夏・冬休みの計120日に減らします。新設だけでなく、既存の施設も含める点が特徴で、国の法律よりも厳しい規制となります。一方、江戸川区は新しい民泊施設を認めない条例を2026年夏に施行したい考えで、この12月からパブリックコメントの募集を始めました。
2018年に民泊新法が施行された際、東京23区では江戸川区や墨田区など5区を除いて独自の条例を制定し、民泊施設の乱立や無分別な営業を規制しました。条例のなかった5区も現在、そろって条例制定の準備を進めており、23区の施設はいずれも区独自の厳しい規制を設けることになります。
民泊施設は今もトラブルが続いています。「地元説明会では話が出なかったのに、新築の賃貸マンションが1棟丸ごと民泊施設になった」「真夜中に到着した外国人グループが大型の荷物を転がしながら住宅街を徘徊する」といった声は途切れません。こうした住民の不安を政府や自治体はしっかりと受け止めることができるのでしょうか。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。