「日本人ファースト」のスローガンが記された参政党の選挙カー=2025年7月3日、東京・銀座(写真:共同通信社)
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)
外国人に関心が集まる参院選
参院選に関連して、外国人「問題」に政治、そして社会の関心が向いている。批判も含めて、関心の中心と言ってもよいかもしれない。
政府も、この選挙運動期間中に「対策の司令塔」新設を打ち出すくらいだからよほどのことといえよう。相当の危機意識の現れだ。
◎TBS NEWS DIG「外国人対応への「司令塔」組織設置へ 石破総理が表明 外国人による犯罪・制度の不適切利用は参院選でも争点に」
国内の日常生活のなかで外国人を見かける機会は格段に増えた。それは単なる感覚的なものではなく、統計が裏付ける事実である。
まず、この変化の規模と速度を概観してみよう。訪日外国人旅行者、いわゆるインバウンドは、筆者が大学生だった20年前の2003年には年間521万人であった。それが2024年には3687万人という推計が示されているから、実に6倍近く増えたことになる。
◎観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」
2025年に入ると月間で390万人を突破するなど、単月で過去最高を更新し続けている。
◎JNTO「訪日外客数(2025年4月推計値)|報道発表」
この驚異的な伸びは、小泉政権の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」に端を発し、その後も一貫して政府が数値目標を掲げてきた政策の帰結だ。
しかも現行の第4次「観光立国推進基本計画」においては、2030年までに年間6000万人という、現状の倍近い野心的な目標が設定されている。
本当に可能なのだろうか。
◎観光庁「観光立国推進基本計画(第4次)について」
生活者としての外国人も同様に急増している。法務省の統計によれば、在留外国人数は2015年の約223万人から、2024年末には376万8977人へと、10年足らずで1.5倍以上に膨れ上がった。
◎出入国在留管理庁「令和6年末現在における在留外国人数について」
国籍別では中国が最多であるものの、近年はベトナム、ネパール、インドネシアからの増加が著しい。その多くは東京都(全体の約20%)、大阪府、愛知県といった大都市圏に集中している。
労働力としての受け入れも加速の一途を辿る。厚生労働省によれば、外国人労働者数は2015年の約91万人から2024年10月末には約230万人へと、10年で2.5倍以上に増加した。
◎厚労省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」
特に「専門的・技術的分野」の在留資格を持つ労働者や、人手不足分野を補う「特定技能」制度による受け入れが急拡大していることがわかる。
留学生も同じ傾向にある。
1983年に中曽根康弘首相が2000年代の「早い時期」を念頭に提唱したとされる「留学生10万人計画」が2003年に達成され、さらに2008年には「留学生30万人計画」も達成されるなど政策的に取り組んだ結果として増えてきたのである。
2024年末時点で留学生の在留者数はすでに30万人を超えている。これらの数字が示すのは、日本社会が観光、居住、労働、教育という様々な場面で、この10年に急速かつ大規模に、そして意図的に国際化してきたという事実である。
しかし、これほど大規模な人の移動を政策的に推進しながら、政府は「いわゆる移民政策をとる考えはない」という従来見解を繰り返してきた。
◎THE PAGE「岸田首相「いわゆる移民政策をとる考えはない」 入管法改正案で質疑 参議院本会議(2024年5月24日)」
日本政府は、労働力不足の解消や観光収入の増加といった当座の経済的便益の追求を優先する一方で、それに伴う社会的コストや統合の責任からは目を背けてきたし、今もそうだというほかない。