専門家からの懸念:軍事力強化の「起爆剤」となるリスク

 しかし、この政策転換には米国内から厳しい批判の声が上がっている。

 米外交問題評議会(CFR)などの専門家は、H200が依然として強力な計算能力を持っており、これを大量に供給することは中国のAI産業、ひいては軍事能力の強化に起爆剤を与えるようなものだと警告する。

 H200は、中国向けに性能を落とした従来の「H20」に比べて数倍の性能を持つとされる。

 米連邦議会の超党派議員グループは、輸出解禁を阻止するための法案を準備するなど、政権の決定に強く反発しており、今後の火種となることは必至だ。

今後の展望と課題:安保上の「排除」リスクとコストの壁

 今後の焦点は、実際にH200がどれほどの規模で中国へ渡るかという「実行段階」に移る。ここで浮上するのが、中国側の対応だ。

 中国は今年7月、エヌビディア製チップに対して「バックドア(裏口)」の懸念があるとして調査を示唆するなど、安全保障を理由に米国製品を排除する動きを見せてきた。

 米国側が輸出を許可しても、中国側が「データの主権」や「国家安全」を理由に輸入を制限したり、詳細な技術開示を求めたりする可能性は排除できない。

 また、米政府が徴収する25%の手数料が販売価格に転嫁されれば、中国の顧客企業にとってコスト増となる。

 それでもH200を選ぶのか、それともコスト対効果で国産チップに流れるのか。経済合理性に基づく慎重な判断が求められることになる。

 トランプ政権による今回の決定は、米中技術覇権争いにおいて「完全なデカップリング(切り離し)」から、「管理された競争と利益回収」へと舵を切ったことを意味する。

 しかし、そのバランスは極めて危うい。

 エヌビディアら米企業にとっては巨大市場への再参入となるが、それは同時に、米中の政治的駆け引きの最前線に立ち続けることを意味している。

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