好決算が生んだ「再投資」の余力

 この巨額出資の背景には、エヌビディアの圧倒的な財務基盤がある。

 同社が11月下旬に発表した2025年8〜10月期決算では、売上高が前年同期比62%増の570億ドル超(約8兆9000億円)となり、純利益も過去最高を更新した。

 主力AI半導体「Blackwell(ブラックウェル)」の需要は依然として供給を上回る状態が続いている。

 市場では一時「AIバブル」への懸念も囁かれた。だが同社はその収益を今回のような戦略的パートナーへの再投資に充て、自社GPUを産業界の「インフラ」として定着させる手を打った。

 シノプシスのサシーン・ガジCEOは、今回の出資について「エヌビディアのGPU購入を約束するものではない」と説明している。

 しかし、設計ツール自体がGPU向けに最適化されれば、結果としてユーザー企業によるエヌビディア製品の導入が進む公算が大きい。

「排他的ではない」オープンな協業の真意

 特筆すべきは、今回の提携が「非独占的(排他的ではない)」と強調されている点だ。

 シノプシスは米インテルや米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)といったエヌビディアの競合企業とも取引を継続する意向を示している。

 一方のエヌビディアもシノプシスの競合である米ケイデンス・デザイン・システムズとの協業関係を維持している。

 これは特定の企業だけで囲い込む垂直統合モデルではない。むしろ、業界標準のツールに自社技術を深く浸透させ、エコシステム全体での優位性を確保しようとするエヌビディアのしたたかな戦略とも見て取れる。