「ソブリンAI」が目指すもの:データ主権とレジリエンス

 韓国のみならず、フランス、ドイツ、英国、インド、中東諸国などがソブリンAIに注力する背景には、共通した狙いがある。

1. 超大国への依存回避と規制権限の確保

 米国の巨大テック企業が提供するブラックボックス化したAIに依存し続けることは、自国のデータや文化的文脈が他国のアルゴリズムに支配されることを意味する。

 各国は、自国の言語、歴史、価値観を反映したAIを持つことで、「データの主権」を取り戻そうとしている。

2. 経済安全保障とレジリエンス(強靱性)

 地政学的リスクによるサービス停止や、他国の政策変更による技術封鎖への懸念が高まっている。

 国内に代替可能な計算インフラとサービスプロバイダーを持つことは、有事の際の国家機能を維持するために不可欠とみられている。

 エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は以前より、「各国は自国のデータという『国の宝』を自ら所有し、独自の知性を生み出すべきだ」と提唱してきた。

 今回の韓国の動きは、その具現化といえる。

民間セクターも呼応、84兆円規模の投資へ

 政府の動きに呼応し、韓国の民間セクターも動き出している。

 サムスン、現代(ヒョンデ)、SK、LGの4大財閥グループは、AIデータセンターやチップ製造、AIを活用したスマートマニュファクチャリングに対し、合計で約5400億ドル(約84兆円)相当の投資を行うことを確約した。

 また、ハードウエア面でのエヌビディア依存からの脱却も見据え、Rebellions(リベリオンズ)やFuriosaAI(フュリオサAI)といった国内AI半導体スタートアップが、より安価で効率的なNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)の開発を急いでいる。

 ソフトウエア面では、ネイバーやカカオといったネット大手が、既に韓国語に特化した独自LLMを展開済みだ。