台湾喪失は我が国へ危機存亡の影響

 中国が尖閣諸島を焦点とする南西地域と台湾に及ぼす脅威は、ロシアおよび北朝鮮と同調・連携する現状を踏まえると、単に東アジアのみならず世界の安全保障に影響を及ぼす問題といえよう。

 尖閣・台湾は、グローバルな対立あるいは専制主義・強権主義と民主主義との対立の最前線に立たされており、あえて直言すると、東アジアでは台湾海峡や朝鮮半島問題に見られるように、東西冷戦の残渣が完全には払拭されていないのである。

 特に台湾は、中国にとって、黄海から東シナ海、南シナ海の重要海域を支配し太平洋への突破口を開くための不可欠の鍵である。

 日米などにとっては、米国を中心とする同盟ネットワーク(鎖)を中央部で結び付ける必須の地位にあり、第1列島線防衛およびシーレーン防衛の要衝である。

 米国のインド太平洋戦略は、冷戦期に「アリューシャン列島に連なる『鎖』―日本、韓国、琉球、台湾・澎湖諸島、フィリピン、東南アジアの一部の地域、およびオーストラリア、ニュージーランド―は、中国大陸を囲むようにして繋がっており、この『鎖』こそ、アメリカの考える太平洋地域の安全保障上不可欠なものである」(U.S. Department of State, Foreign Relations of the United States, 1952-54)とされていた。

 その基本的考え方は、現在でもさほど変わっていない。

 台湾喪失は、インド太平洋における米戦略の崩壊につながり、その結果、米国は東アジアにおける膨大な権益を失い、ハワイ以東への後退を余儀なくされよう。

 日本にとっては、南西地域の南方を脅威に曝され、またシーレーンが脅かされ、中国による経済的・軍事的封鎖のリスクに見舞われよう。

 日本は原油資源の9割近くを中東から輸入し、その約8割がマラッカ海峡経由で輸送しているからである。

 また、台湾に中国の軍事的基盤ができれば、東シナ海側からだけでなく台湾側、さらには今般、中国空母「遼寧」の太平洋進出から想起されるように、太平洋側からも軍事的圧力を受ける態勢になる。

 加えて、12月6日のレーダー照射事件とそれに続く中国とロシアの共同爆撃機飛行を考えると、我が国を巡る安全保障環境はさらに悪化し、四周から圧力を受ける新常態(ニューノーマル)の危機的安全保障環境に陥る恐れがあると見なければならない。

 そのような戦略的に優位な態勢を獲得するため、中国は、米国や日本など外国勢力による台湾統一への干渉・介入の阻止に血道を挙げているのだ。

 一方、台湾の武力統一は尖閣・南西地域への軍事侵攻を伴う蓋然性は否定できず、また、前述の通り、台湾の喪失は「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」になる危険性が高く、それらを想定した「重要影響事態」や「存立危機事態」への対処は我が国として決して妥協できない問題である。

 以上の文脈から、両事態における任務・役割を十分に果たせるよう自衛隊の実力を最大限に高め、日米共同の抑止力を比類なきレベルに強化することは、まさに喫緊の課題であるに違いない。

 その意味でも、先日公表された米ドナルド・トランプ大統領の「国家安全保障戦略(NSS)」を受け、これからピート・ヘグセス国防長官が発表するであろう「国家防衛戦略(NDS)」には特段の注目が必要である。