対欧関与の相対的縮小──NSSの真意を読む
NSSではEU(欧州連合)についても手厳しく指摘している。
「政治的自由と主権を損なう超国家機関の活動」「大陸の性格を変容させ社会的摩擦を生む移民政策」「言論の検閲と政治的反対派の抑圧」などが生じていると断じる。
この「検閲」「反対派抑圧」の指摘は、ドイツ国内のAfD(ドイツのための選択肢)を巡る論争を想起させる。今年2月のドイツ総選挙で第2党に大躍進した同党は、「反EU・反移民」を掲げ、過激派監視を行うドイツの情報機関、憲法擁護庁の「監視対象」となっている。
さらに、欧州とロシアとの不仲についても、独自理論を展開する。
「欧州は自信欠如の状態で、核兵器を除き、あらゆる分野でロシアを凌駕するハードパワーも持ちながら、ウクライナ戦争の結果、両者は断絶。欧州市民の多くがロシアを『脅威』と見なす」と嘆く。
だが、侵略戦争を仕掛けたプーチン氏に欧州市民が敵意を抱くのは自然だ。そこで「ユーラシア大陸全体の戦略的安定を再構築し、衝突リスクを緩和するには、アメリカの積極的な外交関与が不可欠」と説く。
その上で、「ウクライナでの敵対行為の早期終結を交渉することは、欧州経済の安定化、予期せぬ戦争拡大の防止、ロシアとの戦略的安定回復、さらにウクライナが存続可能な国家として再建されることが、アメリカの核心的利益だ」と強調する。
一見もっともらしいが、裏を返せば「敵対行為の早期終結」とは、侵略者・ロシアにウクライナが白旗を挙げろ、とも解釈できる。「存続可能な国家として再建」についても、ウクライナが旧ソ連時代のように、再びロシア支配下に置かれるべきだ、とも読み取れる。
それ以前に、指摘する「欧露関係の断絶」は、そもそもロシアによる侵略行為が発端なのに、NSSではロシアの侵略行為に対してほとんど非難していない。これでは「ロシア贔屓」と指弾されても仕方がないだろう。
トランプ氏は「こうした状況が続けば、欧州は20年以内に(欧州人の国なのかどうか)見分けがつかなくなり、特定の欧州諸国が信頼できる同盟国であり続けるに足りる経済力・軍事力を維持できるかは疑わしい」とし、「(西洋)文明の消滅」に直面すると警告している。