NSSに即応する欧州首脳──不信と自立のはざまで

 フランスも2001年に事実上停止した徴兵制を段階的に再導入しようと検討している。

 11月28日、マクロン氏はSNU(国家奉仕制度)の拡充を基盤に兵役的要素の段階導入を提案。英BBCによると「われわれは動員しなくてはならない」と、国民への理解を訴えたという。

 フランスはすでに若年層向けのSNUを実施するが、これをベースに軍事訓練なども盛り込む計画だ。2026年夏から18~19歳の国民男子に対して段階的に導入を開始、2026年に5000人、2035年に5万人の新兵を徴兵で確保することを目指す。

 フランスも1989年時点で総兵力約46.1万人、予備役約41.9万人(潜在的には130万人以上)を擁し、大半が陸軍だった。旧西独とは伯仲の間柄で、独仏の“二大陸軍国”が中部欧州に鎮座し、これに強大な在欧米軍が加わることで、旧ソ連軍大戦車軍団の「赤い津波」に対峙、けん制することで絶妙な軍事バランスを保っていた。

 デンマークは冷戦後も徴兵制を維持するが、2023年に議会が兵役強化法案を可決し、2025年7月から男女同一制度へ移行。女性にも検査・徴集が適用される点で、「ジェンダー先進国」の矜持とも言える。

 オランダは1997年に徴兵制を停止したが、2014年のロシアによるウクライナ領クリミア侵攻に脅威を覚え、2018年に男女問わず満17歳の国民に対し、徴兵リストへの登録通知の送付を開始した。これは予備役登録の一環で、今後正式に徴兵制復活となる可能性が高い。

徴兵制を停止したオランダも兵員募集に血道を上げる。募集イベント参加の若い女性が歩兵装備と小銃の携帯を体験(写真:オランダ国防省facebookより)

 ベルギーも徴兵制導入を模索する。1994年に徴兵制を廃止したが、「停止」ではなく「廃止」のため、徴兵制復活となれば、オランダなどと比べて政治的ハードルがかなり高くなることが予想される。

 このため、「助走段階」として満17歳の男女全員に任意志願を促す募集書簡を送付、年間7000人の新兵確保を目標としている。

1994年に徴兵制を廃止したベルギーも徴兵制復活を模索。手榴弾投擲(とうてき)訓練を行う陸軍新兵(写真:ベルギー国防省Facebookより)

 ポーランドはロシアの飛び地でバルト海に面するカリーニングラードや、ロシアの同盟国でロシア軍が駐留するベラルーシと国境を接し、NATO諸国の中でも、特に強い危機感を抱く。

 2009年に徴兵制を廃止したが、英BBCによれば3月にトゥスク首相は全成人男性への軍事訓練の義務化を立案中だと発表した。若者から高齢者まで国民約40万人を動員した同国史上最大規模の(軍事)訓練「常に備えよ」の実施も宣言。あわせて現行の総兵力21.6万人(予備役、準軍隊含む)を50万人にまで拡大する構想も打ち出している。

ポーランドはNATO同盟国の米独製戦車に加えNATO初の韓国製K-2戦車の採用に踏み切り、必要台数の迅速確保に挑む(写真:ポーランド国防省Facebookより)
2026年に防衛協力を定めた協定を締結する方針を示したドイツのメルツ首相(右)とポーランドのトゥスク首相(2025年12月1日、写真:ロイター=共同通信社)