6月5日に行われたNATO国防相会合(ベルギー・ブリュッセルにあるNATO本部、写真:ロイター/アフロ)
トランプ氏が強要する「GDP比5%の国防費」を丸のみのNATO
ウクライナ戦争の長期化やロシアの軍事的脅威が高まる中、欧州が大慌てで国防力増強の“進軍ラッパ”を吹き始めた。
6月5日、NATO(北大西洋条約機構)の国防相会合が開かれ、ルッテNATO事務総長は、加盟国の国防費増額目標として、現行のGDP比2%をいきなり5%にアップする案を提示した。
ただし“真水”部分の国防費の増加分は3.5%で、残り1.5%は有事で使用する高速道路や空港、港湾といったインフラ整備など、安全保障の概念を広く捉えて下駄をはかせるもくろみだ。トランプ米大統領が強要する「国防費はGDP比5%」のいわば丸のみである。
ルッテ氏は会見で、「大半の加盟国は、トランプ氏が訴える『自国の安全保障にGDP比5%を投資すべき』の要求を支持する」と強調。来たる6月下旬に開かれるNATO首脳会議での正式決定に手応えを感じている。
NATO事務総長のルッテ氏(写真:ロイター/アフロ)
NATOの欧州加盟国(欧州NATO)が軍拡に大きくかじを切るのは、トランプ氏がチラつかせる「NATO脱退」が相当効いているからだ。
「5%」の数字は、トランプ氏が政権返り咲き直後の今年1月23日、スイスで開催のダボス会議にリモート参加した際にぶち上げ、世間を騒がせた。
英ガーディアン紙によれば、トランプ氏はこの時、「私はNATO各国に(現在目標のGDP比2%から)5%へのアップを求める」と具体的数値を披露し、「アメリカは長年にわたり不公平な状況にある」と不満もぶちまけた。
続く3月6日、トランプ氏は記者団に対し、「彼ら(欧州NATO)が(十分な国防費を)払わないなら、私は彼らを守らない。絶対に守らない」と強調した。
ルッテ氏の“丸のみ”に、国防相会合に出席したヘグセス米国防長官もご満悦だが、
「NATO各国は、今後10年間で国防費目標をGDP比5%へと大幅引き上げることについて、ほぼ合意に達している」
「NATOは数週間以内に5%引き上げを確約することになり、軍事費として3.5%、インフラや防衛関連活動に1.5%を割り当て、これが真のコミットメント(公約)となる」
と、ヘグセス氏は念押しすることも忘れなかった。
6月5日、ワシントンでトランプ氏と初の会談に臨んだドイツのメルツ首相も、その後の会見で、
「欧州は防衛を強化し、NATOの代替を数カ月以内に模索しなければならない」
「アメリカがまだ欧州を支援してくれる間に、欧州はアメリカを味方としてとどめておくための努力を尽くさねばならない」
と自戒し、国防に対する欧州の努力不足をはっきりと認めた。
6月5日、米ホワイトハウスの大統領執務室でトランプ氏と会談したドイツのメルツ首相(左、写真:Pool/ABACA/共同通信イメージズ)
G36小銃の分解・組立て訓練を行うドイツ連邦陸軍の新兵。ロシアのウクライナ全面侵略を契機にドイツでは徴兵復活の声が高まっている(写真:ドイツ連邦軍サイトより)