「正規軍26万人、予備役20万人」を目指すドイツ
2025年11月現在、NATO加盟国32カ国の中で、「何らかの形で招集・義務登録・検査義務を伴う制度」がある国として、デンマーク(2025年7月から男女対象)、ギリシャ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、トルコ、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)などが挙げられる。
軍事演習を行うデンマークの徴集兵たち(2024年6月、写真:ⒸMads Claus Rasmussen/Ritzau via ZUMA Press/共同通信イメージズ)
強大な宿敵・ソ連が1991年に崩壊し、「赤い(共産勢力)大戦車部隊の津波が欧州平原に押し寄せてくるかもしれない」という“悪夢”が杞憂に終わると、西欧諸国は我が世の春とばかりに一斉に軍縮を実施した。
徴兵制を維持した国の大半も、2000年代までに徴兵を停止・廃止し、存続派はデンマーク、ギリシャ、トルコの3カ国のみである(フィンランド、スウェーデンのNATO加盟はウクライナ戦争勃発後)。
フィンランドでは男性だけに兵役義務が課され女性は志願制だが、国防意識が非常に高く女性の入隊志望は2025年で1400人に達する(写真:フィンランド国防省Facebookより)
だが、ここにきてNATOの欧州加盟国は急速な徴兵復活の動きを見せている。それを印象づけたのが、ドイツの動きだろう。
12月5日、ドイツ連邦議会(下院)は、新兵役法案を賛成多数で可決。2011年に徴兵制を停止し志願制に移行したが、連邦参議院での承認を経て2026年1月から実施予定だ。
まずは、本格的な徴兵制に移行するまでの期間として、満18歳の男子国民全員に適性(徴兵)検査を義務付ける。志願兵獲得の効果も期待しており、自ら志願した者には、月額2600ユーロ(約47万円)の報酬も保証するという。
2011年徴兵制を廃止したドイツは2026年に徴兵制再開を視野に入れた適性検査義務付けを開始する。写真は1980年代前期、旧西独軍に入営する若き徴集兵(写真:ドイツ連邦軍Facebookより)
適性検査にパスし晴れてドイツ連邦軍入隊の第一歩を踏み出す若者たち。写真からも緊張した面持ちが伝わってくる(写真:ドイツ連邦軍Facebookより)
シンクタンクの英国際戦略研究所(IISS)が発行する『ミリタリー・バランス(2025年版)』によれば、2024年のドイツの総兵力は約18万人、予備役約3万4000人で、日本の自衛隊(約22万人)よりも小ぶりだ。
冷戦終焉直前の1989年当時(旧西ドイツ)は約47万人、予備役85万3000人を誇り、正規兵のほぼ半数、約20万5000人を徴兵で賄っていた。その大半が陸軍で、NATOの欧州加盟国の中では、トルコ(正規軍約64.7万人、予備役約110.7万人)に次いで2位の「大陸軍国」だった。
さすがに短期間で以前の大兵力を復活させるのは無理だが、計画では10年後の2035年までに正規軍26万人、予備役20万人の確保を目指す。
ドイツ西部の軍施設で同国の「最後の義務兵役」に就く若者を指導する陸軍士官(2011年1月、写真:ロイター=共同通信社)