背景に「AI軍拡競争」、シミュレーション時間を劇的短縮

 巨額投資の背景には、AI技術が国家の競争力を左右する「AI軍拡競争」の激化がある。

 特に中国との技術覇権争いを念頭に、米国防総省や連邦機関は、サイバーセキュリティー対策や兵器システムの自律化、創薬研究などにおいて、従来のデータ処理能力をはるかに超える計算資源を求めている。

 アマゾン側は、今回のインフラ増強により、従来は数週間から数カ月かかっていた防衛や情報分析のシミュレーションが数時間に短縮されるとしている。

 衛星画像やセンサーデータの解析をAIで自動化し、脅威検知から対応策の策定までをリアルタイムで行う体制への移行を支援する狙いだ。

全方位戦略:OpenAIから国家まで

 今回の一手は、アマゾンが展開する「全方位戦略」の一環と捉えられる。

 11月初旬、オープンAIはアマゾンと7年間で380億ドル(約6兆円)規模のクラウド利用契約を結んだ。

 競合である米マイクロソフトへの依存脱却を図るオープンAIと、AIインフラでの復権を狙うアマゾンの利害が一致した結果だ。

 アマゾンはこの契約で民間市場での存在感を示した。

 一方、今回の政府向け投資では500億ドルという巨額の自己資金を投じる計画を打ち出した。既に1万1000以上の政府機関を顧客に持つ強固な地盤をさらに盤石なものにする狙いがある。

 AI分野では米グーグルや米オラクルなどの競合が政府案件への食い込みを強めており、マイクロソフトも攻勢をかけている。

 アマゾンとしては、重要な収益基盤である政府向け市場において、他社の追随を許さない圧倒的な「物理的容量」を確保し、防衛線を張る構えだ。