日本の詐欺被害を激減させるために
これらを見ていると、日本に必要なのは根性論の強化ではなく、接続の設計だと思えてきます。日本には技術がないわけではありません。
通信も金融も行政も、世界的に見て高い実務能力を持っています。問題は、その能力が縦割りのまま点在し、詐欺の流通を面で押さえる構造になっていないと思われることです。
私は、官民横断の詐欺情報の共有が最初の扉になると考えます。
金融機関の不審送金の兆候、通信事業者のなりすましの兆候、警察の捜査で判明した手口の特徴。これらを点の通報で終わらせず、危険パターンとして共有させることが重要ではないでしょうか。
もちろん個人情報保護や目的外利用の懸念が出ます。だからこそ、共有の法的根拠と監査の仕組みをセットで作り、濫用を防ぎながら実効性を確保することが必要です。
ここは制度設計の勝負どころになります。
次に通信網側です。
なりすましや海外発の疑わしい通話やSMSについて、明確に危険なパターンをブロックできるよう、制度と運用を後押しする必要があります。
届くこと自体が攻撃の成功条件になっているなら、届きにくくするだけで被害は減るはずです。これは治安対策であり、同時にインフラ運用の話です。
金融側では、不審送金の遅延を正面から制度化する議論がいります。
金融取引を止める時間を作り、その間に追加確認や関係者照会、心理誘導のパターン把握を可能にすれば間違いなく効果が上がると思います。
詐欺は速度が武器です。ならば、速度に対抗する必要があります。本人確認の強化も避けて通れません。
SIM、口座、受取口座を段階的に強化し、匿名インフラを縮小することです。ただし利便性の副作用は大きくなります。
高齢者や障害のある人、デジタルに不慣れな人が排除される設計になってはいけません。救済策と代替手段を同時に用意することが前提になります。
この領域は、専門家の見解も踏まえつつ、実務の負荷と人権のバランスを丁寧に詰める必要があるでしょう。
最後に、高齢者の詐欺被害を自己責任化しない支援設計も必要です。特殊詐欺が突いているのは、個人の弱さではなく、連携の隙間だからです。
特殊詐欺対策は、警察だけの仕事ではありません。通信と金融と行政の共同事業にしなければ効果が上がりません。
詐欺側がAIで進化し続けるなら、社会の側もAIとインフラで対抗する段階に入っています。
日本は変わる力を持っています。ただ、点在する強さをつなげる設計が、まだ十分に見えていないように思われます。
現在日本で急増中の特殊詐欺対策は、その連携を始める最も現実的な入口になるのではないかと思っています。
インフラをつなぎ直し、AIを中核に据えた安全の設計図を描けるかどうか。そこが、これからの日本社会の分岐点になるでしょう。
筆者作成