注意喚起では被害抑止に限度
第1に、高齢化による対象母数の大きさです。
これは単に高齢者が多いという話にとどまりません。高齢者向けの手続き、医療や年金や介護など生活の基盤に関する連絡が日常化しているので、公的機関や銀行や家族を名乗る連絡があります。
これは、詐欺師がなりすまししやすい環境とも言えます。日本のように人との信頼関係が強いほど、信用しやすい面があるでしょう。
第2に、通信と金融と捜査の境界が、詐欺に有利に働きやすい点が挙げられます。詐欺電話やSMS(ショート・メッセージ・サービス)が届くのは通信の領域になります。
お金が動くのは金融の領域です。被害が確定して捜査になると警察の領域になります。
分業自体は合理的ですが、詐欺師の側から見ると分業の隙間が最も美味しい場所になっている可能性があります。
通信が怪しいと気づいても、金融の側で止める根拠が弱ければ通信業者に働きかけられません。逆に金融側に怪しさを感じても、通信の側で発信元や手口の流通を絞れなければ同じ攻撃は続きます。
そして警察に届く頃には、被害は実行済みになるのです。現場が弱いのではありません。制度と運用が、詐欺師にとって都合が良い可能性が高いのです。
第3に、予防よりも最後は本人の注意に頼る運用です。
日本の啓発は丁寧で、自治体も金融機関も努力しています。しかし、注意喚起だけは詐欺の実行を食い止めるには力不足だと思われます。
注意喚起は、詐欺に遭う確率を少し下げる道具ではあっても、詐欺の流通そのものを細くする道具としては心許ないからです。
しかも詐欺師は、相手を動揺させ判断力を落とす手口を用います。時間を奪われた状態で、落ち着いて注意事項を思い出すのは難しいでしょう。