小説「餃子時代」に描かれた1950年代の姿
1955年には、田村泰次郎が「餃子時代」という短編小説を発表している。
田村は自分の文学の本質が戦争文学にあると考えていたが、戦争体験を通して「思想」を信じなくなり、しだいに風俗小説へと傾斜した。
小説「餃子時代」においても、田村が餃子を通して描いたのは男女の愛憎劇であり、満洲国の元官吏の妻と女中が戦後の東京で開いた餃子店が舞台になっていた。
小説「餃子時代」は、満洲からの引揚者が餃子を流行らせる社会状況を描いた作品であり、1950年代には日本各地で実際に起きていそうな物語であった。
例えば、劇作家の別役実は、満洲国の総務庁に勤務して宣撫工作(人心を掌握して支配を安定させる活動)を担った下級官僚の長男として、1937年に新京で生まれた。
1946年に日本に引き揚げたのち、別役の母が長野で餃子屋台を始めると、それが繁盛してようやく生活が安定したという。
ちなみに、餃子は冷凍食品によっても普及した。
1960年代からまず冷凍シュウマイの生産が始まり、1960年代後半に日本冷蔵(現・ニチレイ)が機械メーカーと共同で成型機を開発し、コスト削減と量産化に成功した。
続いて冷凍餃子も、同じ機械メーカーの成型機で生産されるようになった。
とくに1972年に発売された味の素の「ギョーザ」が、家庭用冷凍食品として超ロングセラーの優良商品になっている。




