日本にも重なる大きな政府の限界

 一連の光景は日本にも通じるところがある。20兆円を超える補正予算を準備した点に鑑みれば、自民・維新連立政権は大きな政府を目指していると言えなくない。野党はそれを批判しているが、基本的には野党の方がバラマキ志向だ。財政収支のワニの口を一段と広げようとするなら、債券安と通貨安が進むのは当然の帰結である。

 投資家が期待するのは、公的債務残高の圧縮では必ずしもない。財政収支のワニの口を広げないような、持続可能な財政運営に努めることだ。基礎的財政収支の実現を公約に掲げることは、こうした文脈から大きな意味を持っている。現に、イタリアやスペインはそれが守られているからこそ、フランスよりも金利が低下している。

 日本も潜在成長率を上回る物価高が定着して久しく、その意味でスタグフレーションに陥っている。この点からしても、投資家の目線からしても、大きな政府を目指すことは望ましくない。スタグフレーションであり物価高から脱するためには、チグハグなマクロ経済運営を改める必要がある。いたずらなバラマキは問題を複雑にさせるだけである。

 週明けの東京市場では国債が売られ、長期金利は2%を目前としている。高市首相が適切なメッセージを投資家に対して発せられない限り、こうした流れは続くことだろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。