なぜ労働党は左派政策にこだわるのか?
そもそも労働党は中道左派であり、責任政党としての経験も豊富である。今から25年前には、当時のトニー・ブレア元首相の下、より中道寄りで経済成長にも配慮した経済運営を手掛け、国民からの信頼を得た実績もある。これは1970年代に政権を担った際、その左派政策がスタグフレーションを深刻化させたことへの反省に基づいていた。
それに比べると、現在の労働党は、当時に比べても左傾化している。その最大の理由は、ライバル政党である保守党が中道寄りに軌道を修正したことにあると考えられる。ジェームス・キャメロン元首相の下で保守党が2010年に労働党から政権を奪取して以降、リーマンショックの余波もあり、保守党もまた“大きな政府”路線を歩んでいた。
そうなると、労働党は自らのアイデンティティを左傾化というかたちで示さざるを得なくなる。スターマー首相の前任であるジェレミー・コービン元党首は、まさにそうしたロジックで労働党の左傾化を主導した。コービン元党首時代よりは中道寄りに修正されたとはいえ、労働党が左派政策にこだわるのはそうした政治力学が働いているためだ。
たしかに都市と地方の格差、また都市内での格差も拡大しており、その意味で分配を重視する左派政策に対する期待もある。ただし、スタグフレーションが左派政策で改善しないことは歴史が証明している。政党としてのアイデンティティを失うことを恐れるあまりに、労働党は左派政策を基本に据えざるを得ないのだろう。
大陸欧州でも、二大政党制の下で中道左派政党が同様の苦境に立たされている。しかしスタグフレーションの時代に大きな政府を追求することは問題の解決にはつながらないし、その政策運営のために財政収支のワニの口が拡がると意識されれば、金融市場は必ず牙をむく。今回の秋の予算案では市場の混乱を逃れたが、まさに薄氷と言えよう。