Netflixが独占配信、地上波中継は消滅
2026年大会では、米動画配信大手Netflix(ネットフリックス)がWBCIと独占パートナーシップを締結し、全47試合を日本でライブとオンデマンドで独占配信する。契約額は前回大会の5倍に相当する150億円ともいわれ、WBCIがWBCを世界的な大会へ育てるために行ってきた“投資”を回収していくステージへと突入したといえる。
前回の2023年大会は東京ドームで1次ラウンドに加え、準々決勝も実施された。しかし、今大会からは準々決勝から米フロリダへ舞台を移す。つまり、東京ドームで観戦できる本戦は、3月6~10日に開催される1次ラウンド4試合だけということになる。さらに、有料のネットフリックスが独占配信を行うため、地上波中継も消える。
日本球界は監督選任やチーム編成の権限を持ち、強化合宿や直前の強化試合で大会を“お膳立て”はするものの、WBCによって派生するビジネス的な収益や、大会の実施会場はメジャー主導の流れが加速。いわばチームを派遣する「旅行代理店」のような位置付けへと押しやられてしまっている。
野球をみるファンの眼差しはすっかり肥えており、メジャー組が出場する日本代表への関心は高まるものの、大谷選手らが不在の国内組を中心とした編成となれば、もはや「ドリームチーム」「最強チーム」のような称号も空虚に聞こえてしまう。
かつてWBCは、将来のメジャー入りを目指す日本のトップクラスの選手の「品評会」と揶揄(やゆ)された時代があった。それでも、振り返れば、当時の日本代表の中心はまだまだ多くの国内組が占めていたわけである。それがいまや、国内組は代表で主力を務めることが難しい時代になってきた。
第1回大会で監督を務めた王貞治氏はかつて、筆者の取材に「大会を積み重ねるごとに価値が高まっていけばいい」とWBCの未来を語ってくれた。
しかし、価値が高まったWBCは、代表クラスは海の向こうでプレーするメジャー組が席巻し、皮肉にも日本のファンが観戦や視聴するハードルも高くなってしまった。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。



