親会社である日産自動車の経営不振をきっかけに、“身売り”話が浮上した横浜F・マリノス(写真:千葉 格/アフロ)
(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
サッカー、J1の横浜F・マリノスに“身売り”話が持ち上がった。運営会社の約75%の株式を保有する日産自動車が本業の経営不振を理由に、株式の売却を複数の企業に打診していると報じられたのだ。
日産はその後、「筆頭株主であり続ける」との声明を出して否定したものの、株式の一部売却の可能性は残る。
横浜に限らず、Jリーグの有力クラブの多くが大企業のバックアップに依存し、親会社の業績不振は“身売り”へとつながるプロ野球や「企業スポーツ」と同様のリスクを抱える。
一方で、表向きにはクラブ名称に企業名は冠されず、地域との共存共栄が謳われ、スタジアム整備などで自治体から支援を受けて、「税リーグ」とも揶揄される。
名門クラブの身売り騒動は、企業依存の一方で、公金にも頼ってきたJクラブの構造を改めて露呈した。
横浜F・マリノスの苦境
日本サッカー界を牽引してきた名門クラブに激震が走った。
横浜F・マリノスは1972年創部の日産サッカー部が前身だ。1993年のJリーグ元年に加盟していた「オリジナル10」の一つで、5度のリーグ優勝の実績があり、過去にJ2降格が一度もない。中村俊輔氏ら数多くの日本代表も輩出してきた。1999年には、出資企業の撤退で消滅した横浜フリューゲルスを吸収合併している。
身売り騒動の発端は、日産の経営不振だ。日本経済新聞によると、同社の業績は、2025年3月期の最終損益は6708億円の赤字で、4期ぶりに赤字へ転落。経営再建は待ったなしの状況となり、世界で2万人のリストラと7工場の削減を進める。
クラブが拠点を置く神奈川県内でも、横須賀市の追浜工場と平塚市にある子会社「日産車体」の湘南工場での生産終了が発表されている。
日産は、経営不振を受けて、追浜工場での車両生産終了を決定するなど、経営再建待ったなしの状況だ(写真:つのだよしお/アフロ)
こうした状況の中、スポーツ事業への影響も必至で、横浜F・マリノスが2014年に資本提携した、イングランド・プレミアリーグのマチェンスターCなどを擁する英シティー・フットボール・グループとのグローバル・パートナーシップ契約を解消。
本拠地・日産スタジアムの命名権も、所有する横浜市に対して、現状の半額以下となる年5000万円での再契約を申し入れている。