Jリーグは「税リーグ」
Jクラブは一方で、地元自治体を巻き込んで共同でスタジアムや公共インフラの整備を進めてきた。「税リーグ」と揶揄される所以でもある。
日経新聞の2023年5月19日付記事では、前Jリーグチェアマンの村井満氏が、赴いた地方で「君たちは『ゼイリーグ』だ。どれだけ税金を使うんだ」となじられたというエピソードが明かされている。
例えば、Jクラブが使用する本拠地の多くは、地元自治体が所有している。Jリーグはクラブライセンスの交付基準に、クラブが使用するホームスタジアムの入場可能数(2025年度用の基準では、J1は1万5000席以上、J2は1万席以上)を設けており、これらの競技場整備は、「地域振興」や「Jクラブは地域のシンボル」という建前のもとで、所有する自治体に委ねられる。
そして、Jクラブや関連会社が自治体のスタジアムの指定管理者となり、管理や運営を行っているケースが少なくない。
ANA総合研究所の主席研究員である廣岡信也氏は、こうした実情について、2024年8月30日付の研究レポート「Jリーグは誰のものか」の中で、「いくつかのクラブは自治体所有の競技場の指定管理者として、自己所有の競技場に近い権利を有している」と説明。
「多くの場合は運営管理が赤字になれば、自治体から指定管理料として赤字補填されている」として、「Jクラブは、本体の事業の赤字補填は責任企業から受け、競技場の赤字補填は自治体から受けるという、夢のような構造によって成り立っている」と指摘する。
身売り騒動があぶり出したJクラブの問題
ただし、近年は、通販大手のジャパネットホールディングスが親会社となるJ2のV・ファーレン長崎や、元日本代表の岡田武史氏がオーナーを務めるFC今治などのホームスタジアムが「民設民営」によって誕生し、注目を集めている。
ジャパネットホールディングスが親会社であるV・ファーレン長崎のホームスタジアムは、「民設民営」として誕生した(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
サッカーの年間試合数はプロ野球と比べて極端に少なく、自前でのスタジアム整備が難しいとの指摘もあるが、例えば、長崎は試合がない日もコンコースなどを一般開放し、観光スポットとして集客している。
横浜F・マリノスは2024年シーズン終了後に主力選手の流出が続き、今季はJ1で17位(10月4日現在)と低迷する。
日経新聞の記事によれば、選手への報酬などを含む売上原価が52億円を超えるのに対し、マリノスの2025年1月期の純利益は約900万円にとどまり、J1平均(約7000万円)を下回る。チーム編成面においても、またスポーツビジネスの観点からも、今後の見通しが明るいとはいえない。
プロ野球では、親会社が新規参入してきた球団を中心に新たな球団ビジネスに注力して成功を収めつつある。同じ横浜を拠点に置くベイスターズも、DeNAが親会社になってからは観客動員数も激増し、グッズ売り上げなども大きく伸ばした。
経営再建中の日産が、これからの横浜の舵取りを続けることに限界はないのか。Jクラブの問題構造をあぶり出した身売り騒動を、クラブと親会社や地元負担の在り方を見つめ直す機会にしてもいい。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。



