何者かが診断書を変造?

 後見人の選定について港区が東京家裁に申し出た際の書類の中には、洋子さんの父は「後見相当」であるとの診断書が含まれていた。「後見」は、家族や友人の顔や名前がわからない、トイレや食事も介助がなければできない人などに適用される。しかし、洋子さんによると、父は年相応の衰えはあるものの、買い物も食事も1人でこなすことができた。

 家族のこともちゃんと理解している。実際、自宅に連れ戻った後に複数の病院で診断してもらったところ、認知症を専門とする5人の医師が「認知症ではない」、あるいは「認知症の手前の軽度の認知障害」と診断したのである。

港区区役所

 では、なぜ、東京家裁に提出された診断書は「後見」相当となっていたのか。

 洋子さんが港区の依頼を受けて父の診断をした医師に面会して確認したところ、医師は、軽度や中度の認知症患者が適用される「保佐」に相当する診断をしたと証言した。たしかに、東京家裁に提出された診断書のコピーを見ると、「保佐」に相当する項目にチェックが入っている。ところが、それは二重線で取り消されていた。そして、最も重い「後見」に訂正されていた。洋子さんに対し、医師はこんな話もしたという。

「通常、文書を訂正する場合は、間違ったところを二重線で消して、その上に訂正印を押します。ですが、この診断書は後見の項目にチェックを入れて、その上に押印しています。私が訂正する場合には、このような押印はしません」

 なお、診断書に使われた印鑑は同じものが2つ存在し、1つは医師が、もう1つは病院の事務長が管理していたという。洋子さんは「医師が診断書を作成した後、『後見』で申立てたい何者かが病院と共謀し、診断書を変造したのでは」と考えている。

 現行の成年後見制度では、当事者の認知能力が「後見」と判断された場合、成年後見人は原則としてすべての法律行為を代理できる。金融機関からの現金引き出しや不動産の売却なども代行できるようになる。

 後にわかったことだが、港区が父の成年後見人として推薦した弁護士は、父が所有する港区内のマンションを売却する計画を立て、東京家裁に書類を提出していた。成年後見人は、被後見人の財産を売却すると、売却金額に応じた報酬を受け取ることができる。

 後見人の弁護士はさらに、父親の住民票を千代田区霞が関にある自分の弁護士事務所に移したいとの上申書も東京家裁に提出していた。これは、家族が居場所を追跡できないようにするためだったと思われる。