行政による“高齢者連れ去り”は港区でも発生した
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(西岡千史、フロントラインプレス)

 本人も家族も望んでいないのに、高齢者を親族から引き離し、長期間、面会も許さないという奇っ怪なケースが全国で多発している。自治体が勝手に「高齢者の認知症が進んだ」「虐待から守る」などと判断し、施設に収容してしまうのだ。その間に行政権限で高齢者に成年後見人が付き、家族の同意がないまま財産が処分されそうになったケースもある。

 当の高齢者は、やはり自治体の判断によって医療保護入院させられて精神科病院などから出られなくなり、親族との連絡が遮断される。被害に遭った当事者や親族は「親が死ぬまで会えないのか」「自治体による高齢者の誘拐ではないか」と憤っている。

 行政による高齢者の連れ去り――。

 そんな出来事を追って、調査報道グループ「フロントラインプレス」の記者は各地で取材を継続している。前回までは、警察官が自宅のカギを壊して侵入し、97歳の高齢女性が連れ去られた東京・江東区の事件を3回にわたって報告した。今回は同じ大都会、東京・港区で起きた高齢者連れ去りを報告する。

【YouTube】
YouTubeで江東区事件について詳しく解説しています。連れ去りの現場の衝撃映像も見ることができます。ぜひご覧ください。

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理由もなく母親を連れ去った港区

 きっかけは、ちょっとしたことだった。

 2022年9月22日、斉藤裕子さん(30代女性・仮名)は一緒に住んでいた80代の母とささいなことで口げんかになった。母はかつて統合失調症を患った経験があり、自宅を飛び出すとそのまま警察に駆け込んでしまった。興奮したことで統合失調症特有の妄想の症状が出たようだ。

連れ去られた女性の娘で事件について証言する斉藤裕子さん(仮名)

 この日から親子の運命は変わった。裕子さんはこう振り返る。

「警察から港区役所に連絡があって、母は区内のデイケアサービスの施設に一時的に保護されたそうです。翌日に区から電話がありました。『携帯電話の充電器と着替えを持ってきてほしい』とお願いされ、準備もしていたのですが、なぜか3日後からまったく連絡が取れなくなりました」

 母の統合失調症は重いものではない。80歳を過ぎても東京と故郷の福岡を1人で往復するほど元気で、これまでの経験からも薬を飲んで安静にしていればすぐに症状は収まると思っていた。それにもかかわらず、連絡が取れなくなった。どうしたのかと不思議に思った裕子さんが港区に電話すると、職員はこう言ったという。

「あなたがお母様を虐待していると、われわれ行政は判断しました。そのため、あなたは中長期的にお母様に会えないんです」

 だが、裕子さんには、母への虐待などまったく心当たりがない。虐待の証拠とされた母の薬指の打撲痕は、何年も前に母がオーストラリアを旅行した時にできたもの。「すねにアザがあった」とも言われたが、それは母がお風呂に入った時に尻餅をついてぶつけてできたものだ。そう説明しても港区の職員は、言い分を聞いてくれない。そして、面会禁止を告げられた。

 高齢者虐待防止法は、虐待を受けている高齢者の生命や身体に重大な危険が生じている恐れがある場合、高齢者を一時的に施設で保護する権限を市区町村長に与えている。「分離保護」という制度だ。裕子さん母娘にも適用され、面会禁止になったのである。