勝手に成年後見人をつけられ面会も拒否

 母がどこにいるか分からない。会うことも電話で話すこともできない。そんな状態が続いていた2023年4月、あんなに元気だった母に成年後見人がついたとの連絡が港区から届いた。

 成年後見人は、認知症や精神障害などにより判断能力が不十分になった人に代わり、預貯金などの財産の管理や介護サービスなどを契約できる制度だ。本来は高齢者の財産や人権を守るための制度だが、後見人が家族の意向を無視して不動産を勝手に売却して手数料を得たり、被後見人の高齢者に最小限の生活費を渡さなかったりするなど、トラブルが多発している。

グラフ:フロントラインプレス作成

 トラブルは裕子さんにも降り掛かってきた。裕子さん母娘はもともと福岡県に住んでおり、港区への引越し時に新しい家に入らない家財道具を福岡のトランクルームに預けてきた。その契約は裕子さん名義だが、月々の代金はいつも母の年金から支払っていた。そのため、裕子さんは代金の支払いを成年後見人に依頼したところ、裕子さん名義の契約であることを理由に拒否された。

 裕子さんにとって信じ難い出来事がさらに続く。港区が徹底して、母娘の面会を拒んだのである。

 連れ去られた直後の2022年10月、母は検診で肺がんの疑いが指摘された。それでも港区は母娘の接触を拒み続けた。母がどこにいるのか、まったくわからない。電話もできない。そして1年半以上の月日を経た2024年3月、ようやく面談が許可された。具体的な場所や病院名は知らされなかったが、母は東京都内の精神科病院に入れられているという。

 面談はオンラインで、時間はたった5分に制限された。しかも「家に帰りたいか」や後見人、財産に関する質問はしないという条件が港区側から提示され、誓約書にサインをさせられたうえでの許可である。結局、「元気?」などの挨拶程度の話しかできなかった。

港区側から提示されてオンライン面会時の「お約束」

 おかしなことは、依然として続いた。親娘が分離されてから2年が経った頃には、港区が「裕子さんを虐待者として認定しているわけではない」と説明を変えるようになったのである。

 面会禁止の命令も、法的根拠はあいまいだった。厚生労働省が定めた高齢者虐待防止法の運用マニュアルによると、親子の面会を制限する場合は「行政処分」となるため、行政は家族に書面で通知しなければならない。それに則って裕子さんが面会禁止の理由を書面で通知するよう港区に求めたところ、驚くべき返答が返ってきたという。

「2年以上も面会を禁止してきたのに、法律に基づく措置ではなく、『あれはお願いです』と言ったんです。オンライン面会時の誓約書も、すべて法律やマニュアルに存在しない行為であったことを認めました」

 唖然とするしかなかった。2年以上、必死の思いで何度も母との面会を求めてきた。それなのに、港区は法的根拠もないまま、拒否を続けたというのか。病院にお見舞いすら行けなかった理由を重ねて尋ねると、問い詰められた港区の職員は「医師の判断だ」と理由を変えた。

 そして裕子さんは「母の奪還」を決意する。港区がひた隠しにしていた病院名も把握できていた。あのオンライン面談の際、その名前がZoom内に映り込んでいたのである。