港区の清家愛区長、2025年1月31日の記者会見
目次

(西岡千史、フロントラインプレス)

 本人も家族も望んでいないのに、高齢者を親族から引き離し、長期間、面会も許さないという奇っ怪なケースが全国で多発している。自治体が勝手に「高齢者の認知症が進んだ」「虐待から守る」などと判断し、施設に収容してしまうのだ。その間に行政権限で高齢者に成年後見人が付き、家族の同意がないまま財産が処分されたケースもある。

 当の高齢者は、やはり自治体の判断によって医療保護入院させられて精神科病院などから出られなくなり、親族との連絡が遮断される。被害に遭った当事者や親族は「親が死ぬまで会えないのか」「自治体による高齢者の誘拐ではないか」と憤っている。

 調査報道グループ「フロントラインプレス」が各地で取材している「行政による高齢者の連れ去り」。5回目の今回も東京・港区で起きた事件を報告する。「自治体職員がこんなことをするはずがない」「被害者の方に落ち度があったに違いない」といった意見もあるかもしれないが、本件は区長権限で行った成年後見の申し立てが「後見を開始する要件を満たしていない」として裁判所によって却下され、その過程で申し立てに必要な医師による認知症の診断書が変造されていたことも発覚した。

 六本木や麻布を抱える華やかな港区で起きた、紛れもない現実をお読みいただきたい。

【YouTube】
YouTubeで江東区事件について詳しく解説しています。連れ去りの現場の衝撃映像も見ることができます。ぜひご覧ください。

突然、港区から「成年後見人の選任が必要」との通知

  今回の被害者は、港区に住んでいた90代男性と、長女の戸田洋子さん(仮名、60代)だ。問題が最初に発覚したのは2022年5月のこと。他県に住む洋子さんのもとに港区から郵便が届いた。封を開けると、役所スタイルの文書が入っており、父に関してこう書かれていた。

「現在、判断能力が低下しており、日常生活を送るにあたり、早急に配慮が必要な状況にあります。そのため、本人に代わって金銭や福祉サービスの管理を行う成年後見人を選任することが必要と思われます」

港区から突然届いた手紙

 突然の知らせに驚いた洋子さんは、すぐに港区の担当部署に電話をかけた。すると、担当部署の職員は予想もしなかったことを告げた。すでに父は病院に入院しているうえ、どの病院にいるのかも教えられない、という。

「港区の手紙には、成年後見の申し立ては『4親等以内の親族の方による請求が基本』と書かれていて、私に申し立ての意思があるかを確かめるものでした。なので、私は添付されていた意思確認の書類に、申し立ての意思について『あります』とチェックを入れてファクスしました。それなのに、港区の職員は『成年後見の申し立ては区でやります』と。一方で父の居場所については『個人情報なので言えません』と言うばかり。じゃあ、何のために意思確認の手紙を送ってきたの? 意味がわかりませんでした」

 成年後見制度とは、認知症や知的障害などによって判断能力の衰えた人に代わって、家庭裁判所によって選任された「成年後見人」が財産などの管理をする制度だ。判断能力が低下した人が遺産分割協議や売買などの契約行為をしようとすると、内容をよく理解しないまま合意してしまい、不利益を被る可能性がある。そんな被害を防ぎ、判断能力が低下した人でも適正な契約行為ができるようにすることが目的だ。

 本来は家族らによる申し立てが基本だが、家族らがいない場合など例外的なケースに限って、自治体の長が職権で申し立てできる。洋子さんの父のケースは、港区から家族による申し立てを促され、それに洋子さんが応じたにもかかわらず、港区長が申し立てを強行した。港区長による申し立てについては、反対の意思を示した書面も送ったが、それも無視された。