国民の生活改善に目を向けない中国政府
──中国の格差はなぜ縮小しないのでしょうか?
ユアン:格差は縮小しています。1990年代や2000年代初頭と比べるとかなり縮小しました。農村部の所得は上昇し、絶対的貧困は解消され、多くの内陸地域は沿岸地域に追いつきました。問題は、縮小のスピードが大幅に鈍化し、近年、一部の地域では再び格差が拡大する傾向さえ見られるということです。
この変化にはいくつかの理由がありますが、中国経済が成熟するにつれ、かつて数百万人もの人々を一斉に押し上げたような、広範かつ急速な所得増加を実現することが難しくなっています。
現在、成長を牽引しているハイテク、先進製造業、デジタルプラットフォームといったセクターの発展は、都市部の熟練労働者ばかりが恩恵を受ける傾向にあります。
また、不動産市場の低迷は低・中所得世帯に大きな打撃を与えました。農村部と都市部、高技能労働者と低技能労働者の間に存在する根深い構造的格差を埋めることは依然として困難な状況です。
──中国政府はなぜ国民生活の改善に急いで取り組まないのでしょうか?
ユアン:指導部は「共通の繁栄」と「人間中心の発展」について盛んに語り、過去数十年間で生活水準を着実に向上させてきました。問題は、今後の選択を迫られると、北京は依然として産業の高度化、技術的自立、金融リスク管理などを国力と政治的安定に直結する課題と見なして優先する姿勢から抜け出せないことです。
福祉の抜本的な改革、より強力な再分配、あるいは家計への直接的な資金供給の増加は二の次になりがちです。政策は語られますが、政治的エネルギーや財政資源が大きく投入される気配はありません。
政府が地方債務、高齢化、そして成長鈍化に悩まされる中で、より手厚い社会保障制度を構築するには、多大な費用がかかるという現実的な制約もあります。
──中国国民の生活を改善するために、どのような政策が必要だとお考えですか?
ユアン:人々の生活を真に向上させることを目標とするならば、中国には3つの政策転換が必要だと思います。
第一に、国民が安心して支出できるように、より手厚い年金や健康保険、失業保険の拡充を図ること、そして沿岸部の大都市圏以外で教育と高齢者介護への本格的な投資を始めるなど、セーフティーネットを強化することです。
第二に、賃金上昇の支援、移民労働者の保護、都市部への移住者が登録都市住民と同じ公共サービスを受けられるように戸籍制度を改革するなど、家計所得の向上に明確に重点を置くことです。
第三に、マクロ経済面では、北京はインフラや重工業への資金投入を徐々に減らし、対象を絞った移転や減税などを通じて、低・中所得世帯の購買力を直接高める財政手段を活用していく必要があると思います。そうすることで、内需が後付けではなく、真の成長の原動力となるでしょう。
シャオユ・ユアン(Shaoyu Yuan)
ニューヨーク大学、ラトガース大学 非常勤講師
外交政策、ソフトパワー、米中関係を専門とする国際関係学者。ラトガース大学とニューヨーク大学の2つの大学で非常勤講師を務めている。センターカレッジで学士号、ノースイースタン大学で修士号、ラトガース大学で博士号を取得。2冊の著書と多数の学術論文を執筆しており、『International Affairs』『East Asia』『The Pacific Review』『Journal of Contemporary Eastern Asia』『Humanities and Social Science Communications』などの学術誌に論考が掲載されている。また、『The New York Times』『USA Today』『The Hill』『The Economist』『Al Jazeera』『The Diplomat』といったメディアでも取り上げられている。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。