中国が抱えるパラドックス

ユアン:安価な労働力、不動産、インフラといった旧来の成長モデルは疲弊しています。指導部は先進製造業、AI、EV、そしてグリーンテクノロジーこそが経済を成長に導き、中堅の工業国にとどまることを回避する唯一の方法だと考えているのです。

 加えて、明確な地政学的論理もあります。

 米国による半導体など主要技術に対する長年の輸出規制を経て、中国の政策立案者たちはボトルネック(要衝)を掌握しなければ、他国から締め上げられるという教訓を学んできました。つまり、半導体、ソフトウェア、そして重要技術における「自立」こそ、米国の圧力からの防御力を高めるということです。

 今日の世界では、GDPだけでなく、技術力の程度によって国力は定義されます。「新興・未来産業」への多額の投資は、世界トップクラスの軍事力と、米国と真に互角の競争相手であるという中国の主張を支えます。目指すは、高所得でハイテクな大国になることです。

──5カ年計画には、国内消費を拡大する野心が欠けています。また、中国が突出して強くなると、欧米を中心に、西側諸国が中国との貿易や中国製品の購入を減らす可能性が高まります。そうなれば、最新の技術を持っていたとしても、それを売る顧客がいなくなってしまうのではないですか?

ユアン:そこが核心です。国内面において、家計、雇用、年金、医療、住宅に関して不安を抱えている状態では、政府が望むような消費は期待できません。

 中国は長年、家計の貯蓄と政府の投資に頼ってきました。その結果、工場や高速鉄道を迅速に建設することに成功しましたが、それが一般の人々の生活水準の向上に直結するわけではありません。

 社会保障、所得増加、不動産価格暴落後の信頼回復などにより一層力を入れない限り、国内需要は指導部が望むほどには向上しないでしょう。

 対外的には、中国がEV、バッテリー、太陽光パネルなどの工業製品で競争力を高めるにつれて、危機感を高める欧米はリスク回避の必要を語り、関税の引き上げなどの政治的な反応が見られています。

 どれだけ安価で高品質な製品開発に成功しても、それを外国が無制限に買ってくれるとは限りません。中国が産業の高度化に成功すればするほど、貿易相手国はより不安を抱くというパラドックスが生じるのです。