裁判官に見抜かれた川崎市側の意図

 ところが、この話にはオチがあると西村弁護士が語る。

「最後のオチは、裁判官が『今までのやり取りを総合すると、結局、原告側が主張する時刻でシミュレーションをすれば、被告(川崎市)に不利な結果となる。つまり、ゲートを早く閉めれば水害被害が軽減できたということが、弁論からわかります』と述べ、調書にもそう書かれたことです」という。調書とは、裁判所が作る裁判の記録である。

 もう一つ、裁判で明らかになった点があるという。

 被害を低減できたはずの2度目のチャンス、川崎市が述べる「総合的判断」についてだ。「総合的判断」とは、多摩川の上流部で雨が降っていたか、小河内ダムで降っていた量、多摩川の水位、居住地における降雨量、居住地の氾濫水の色の5点だと原告は主張。

 実は、被告川崎市の操作手順に「総合的判断とする情報一覧」が載っており、同様のものだ。

出典:「令和元年東日本台風による排水樋管周辺地域及び河川関係の浸水に関する検証報告書」(川崎市、2020年10月30日)

 西村弁護士は、「川崎市は『総合的判断をした結果、閉める判断をしなかった』と述べているのですが、総合的判断の要素を一つひとつ、裁判で、中部下水道事務所長に尋問していったところ、事務所長はそれらの要素を認識していたか簡単に認識できたにもかかわらず、それらを考慮していなかった旨を証言したんです」という。