被害を低減するチャンスは2度あった
この点は、裁判で争点になっている。「被害を低減できるチャンスは2度あったと考えています」と解説してくれたのは西村弁護士だ。
1度目:多摩川の水位が最低地盤高を超えた時点。
2度目:川崎市が「総合的判断をした」と述べる時点。
裁判で、「市が行った浸水シミュレーションは、市にとって都合のよい時間帯で計算したものだ」として、原告のいう2度の時点で、ゲートを閉じた場合のシミュレーションを提出するように求めたが、川崎市は拒否した。
それではと、市がシミュレーションを委託した業者に、原告側が求める2度の時点で新たなシミュレーションを作成できるか問うと、業者はデータを入力すれば作成可能で、費用は150万円でできる、とまで答えた。ところが、市のシミュレーションを行なった立場でそれを行えば、公正さが疑われる旨を理由として、作成できないと、これも拒否された。
原告は、この業者以外の8社に依頼してみたが、民間の依頼は受けないという。
西村弁護士は、「そこで今度は、裁判所を通じて8社に改めてシミュレーションを依頼したんですが、『市に不利な結果が出ると、損賠賠償請求されるからできない』と業者が断ったんです」という。
原告としては、これでは、2度の時点でゲートが閉まれば、被害が軽減できたことを数値で証明できない。暗礁に乗り上げたと思った――。