元河川事務所の職員が語る「事実」

 その京浜河川事務所での勤務経歴を持つ中山幸男さんは、「行政は事後対処しかしない。何か起きてからでなければ動かない」と自らの古巣を批判する。

 中山さんは、冒頭で触れた2025年10月のフォーラムでは、原告のために応援講演を行った。川崎駅から徒歩15分のJRや京浜急行の鉄橋部付近の堤防が、計画より薄く低く、台風19号の際には、その堤防から国道409号線へと溢水した。一般家屋への浸水被害はなかったが、住民団体らと協力し、川崎市議会および国交省へ働きかけ、暫定堤防工事を完了させた経験を壇上から語った。

計画通りの堤防の厚さと高さがここで終わっている。2019年台風19号で、鉄橋下の低く薄い堤防から川が溢れた。「ここで堤防が切れたら被害は数兆円単位の損害、数百億で事前に対策をすればそれが防げる」と説明する中山幸男さん(2025年10月23日に筆者撮影)

 そして、「多摩川の水位が高い時にゲートを開けっぱなしにすれば逆流する」、「市は直ちに事実を認め、謝罪し、補償し、今後の対策をしっかり行うことが行政のあるべき姿だ」と語った。

 後日、筆者の取材にも中山さんは5つの樋管の「ゲートが閉まっていれば、一部、市内に降った雨は溜まりますが、河川の水が流れ込んだ今回のような大被害は出なかったといえます」と改めてコメントを寄せてくれた。

 河川管理経験者があっさりとそう述べるほど、5つの樋管による水害の構造は単純だった。裁判官がどのような判断を下すのかが注目される。

 原告団長の川崎さんは、「水害は誰にでも起きる。自分の話に置き換えて考えていただきたい」とフォーラムで訴えていた。