繰り返される水害、それなのになぜゲートは閉められなかったのか

 川崎市が翌年2020年10月30日に公表した検証報告書を見ると、水害が起きる構図は明らかだった。

 観測所「多摩川田園調布(上)」(東京都大田区)の水位が、海面から8.4mを超えると、川崎市側の樋管から溢れて浸水被害が起きる。

•    1974年9月:最高水位9.07m、2樋管周辺で53件の浸水
•    1982年4月:最高水位8.72m、1樋管周辺で65件
•    2007年9月:最高水位8.54m、2樋管周辺で23件
•    2017年:最高水位8.42m、2樋管周辺で17件

 地盤より多摩川の水位が上がると溢れる水害が、繰り返されていた。今回は、過去最高水位の10.81mを記録し、5つの樋管周辺における床上床下の浸水被害は計2506件に上った。

 逆流してマンホールから氾濫することがわかっていて、なぜ「8.4mを超えたらゲートを閉める」という操作手順になっていなかったのか。そのような手順になっていなかったとしたら、誰の責任なのか。

山王樋管の開閉を行うゲート。ゲートにおける川の水位が町側の地盤よりも高ければ逆流する(川田操さん2019年11月11日撮影・提供)

「操作手順通りに行った」という川崎市

 樋管を管理する川崎市上下水道局に尋ねると、同局管路保全課長から「操作手順通りに行った」との回答がきた。しかし、取材を進めるとその操作手順は「8.4mを超えたら閉める」という合理的なものではなく、かつ、課長が言うように、操作手順通りでもないことがわかった。

 5つの樋管は1963年から1971年にかけて設置されたが、ゲート操作手順は、「できた時から変わっていない」(管路保全課長)。どのようなものかと聞けば、「大雨が降ってゲートを閉めると、(町に降った雨の)流れ先がなくなる。大雨が降る恐れがある時はゲートを解放しておく」という。

 実際、その考えでゲートは開けっぱなしだった。5つの樋管周辺では市がパトロールを行ない、マンホールからの溢水が次々と確認されていた。水位も確認できていた。にもかかわらず、その時点でゲートは閉じられなかった。

川へ排水しているのか、川から逆流しているのか、市は「わからなかった」

 管路保全課長に「多摩川の水位が地盤高を超えたら逆流するとわかっていたんですよね」と念を押すと、「流れの向きがわからなかった」と弁明。つまり、川へ排水しているのか、川から逆流しているのか、確認できなかったから開けていたというのだ。

 しかし、町の地盤高が川の水位より低ければ、逆流することは常識で考えてもわかるのではないか。そう問うと、「個人的な見解を述べるのは難しい。係争中でもあるのでお答えしかねる」と課長は回答を避けた。