世界で最初にキリスト教を国教化した国

 アルメニアは紀元301年に、ローマ帝国より前に世界で最初にキリスト教を国教化した。アルメニア人には元祖キリスト教国としての誇りがある。

 誇りの象徴が、アルメニアの国章に描かれるアララト山である。アララト山は、旧約聖書において、ノアの方舟が漂着した場所としてキリスト教徒にとって大変に重要な意味を持つ。現在は関係が悪いトルコ領(歴史的にはアルメニア領であったこともある)にあることも、アルメニア人にとってアララト山を特別な存在にしている。

 ジョージアを除き、周囲をおおむねイスラム教の国々に囲まれている中、独自性の強いキリスト教を維持してきた誇り高い国である。ジョージアは、キリスト教国であるが、民族的、宗派的にはアルメニアと違いがある。

 アルメニアやジョージア、アゼルバイジャンといった国々が属する地域はコーカサスと呼ばれ、民族と文明の十字路と呼ばれてきた。厳密には、ロシアと接する一部のロシア領もコーカサスに含まれる。チェチェンなどイスラム教徒が多い。

 民族や宗教がモザイク状に細かく分かれるコーカサスは、長きにわたり、ロシア、ビザンツ帝国、オスマン帝国、イラン(ペルシャ)が影響力を競う係争地であった。

 現在でも、ロシアと西側、欧州とイスラム圏の重要なせめぎ合いの場となっており地政学的に重要な位置を占める。

 アルメニアは、隣国アゼルバイジャンと紛争を抱えており、その対抗上、ロシアとの関係を重視している(一方で民族的にトルコ系であるアゼルバイジャンはトルコとの関係が深い)。

 同時に西側諸国との関係構築にも積極的だ。2025年3月26日、アルメニア議会が「EU加盟プロセスを開始する法案(EU Integration Act)」を可決した。これは、将来的に加盟を目指す意向を明文化したものだ。

 アルメニアが、ロシア寄りの政策をとるのか、EUなど西側寄りの政策をとるのかは、旧ソ連、イランなど中東、EUなどに大きな影響がある。世界情勢を分析する上で、小さくてもきらりと光るアルメニアの動向を今後も見極めていきたい。

山中 俊之(やまなか・としゆき)
著述家・起業家
 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。2010年、グローバル理解やグローバル人材開発支援、世界とつながる地域創生支援を目的としたグローバルダイナミクスを設立して代表取締役就任。2015年からは、神戸情報大学院大学教授を兼任、アフリカ等からの留学生に対して社会イノベーションについて教鞭をとる。研究室の卒業生の中からは欧州有力ファンドから資金調達に成功した起業家も生まれる。世界101カ国を訪問(2025年4月現在)。先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。

著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)、『世界96カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界の民族超入門』(ダイヤモンド社)など。