狼煙は「本陣・MAGA」から上がった
エプスタイン・ファイルを公開せよ――。
当初、民主党の要求だった動きに同調したのは、トランプ氏の本陣「MAGA」のスポークスパーソン的存在だったマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州選出=51)ら少数の共和党議員だった。
このためトランプ氏は、グリーン氏に「変わり者」「変人」と言ったレッテルを貼り、今後、選挙では支持・支援を撤回すると脅しをかけた。
その後、グリーン氏にはトランプ支持からの離反者も加わり、雪だるま式に法案に賛成する議員は増えていった。
下院での投票で負けると見たトランプ氏は、最後には白旗を掲げてグリーン氏の軍門に下り、方針転換に踏み切った。
実は、トランプ氏が踵を返すのは別に不思議でも何でもない。
トランプ氏は、鳴り物入りで掲げた関税政策ですら何度も修正したし、政府機関効率化のために一度は廃止を検討していた輸出入銀行(輸銀)も小企業からの反対で断念している。新型コロナウイルス検査プログラム終了も批判を受けて撤回している。
米議会担当のあるジャーナリストは「トランプ氏はこれまでにも法案をめぐって態度を180度方向転換したことはあるものの、今回の法案は未成年者対象の性犯罪、それに関わり合いを持った政治エリートとの関係など政治的リスクが高いため、拒否し続けることが難しかったのではないか」と語っている。
今回の劇的法案可決劇は、ただ単にエプスタイン文書公開への道が開かれたということだけでない。
その過程で、大統領就任以来、自らの優先事項(自分に不利だという事案)に合わないと判断すれば、反対分子を脅すような手口を用いても押し通してきたトランプ氏。
その政治手法に対し、共和党内にも反発の火種がくすぶっていた。今回は共和党内からの批判がトランプ氏に撤回を迫ったと言える。
米メディアは、その点を鋭く突いている。保守系経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はこう書いた。
「これまで共和党を意のままに操ってきたトランプの能力が弱まったことを示す一つの兆候だ」
(Trump’s Grip on Republicans Shows First Signs of Slipping - WSJ)
中道でやや左寄りのCNNで上級政治記者(元ワシントン・ポスト記者)を務めるアーロン・ブレイク氏はこう指摘している。
「10年間支持基盤を支配してきたトランプ氏の無敵のオーラが打ち砕かれた」
(Analysis: Trump shows rare weakness by reversing course on the Epstein files release | CNN Politics)
トランプ氏の「無敵のオーラ」が打ち砕かれたのは、エプスタイン問題だけではなくなってきた。