第6部 ロシア国家予算案概観 (2025~28年)

6-1.ソ連・ロシア経済の大黒柱:

 旧ソ連邦時代も現在のロシア連邦も、国の経済を支える大黒柱は石油(原油・石油製品)と天然ガスです。

 油価が上がれば国の経済は栄え、油価が下落すれば経済は停滞します。この点を一番よく理解しているのはプーチン大統領その人(のはず)です。換言すれば、プーチン大統領力の源泉は油価上昇と言えます。

 サウジアラビアが1985年9月に原油増産を発表するや否や、緩やかに下落していた油価は暴落。以後15年間の長きにわたり油価水準は低迷。油価低迷はソ連邦崩壊のトリガーになりました。

 ソ連邦の盟主「ロシア共和国」は、新生「ロシア連邦」として誕生。新生ロシア連邦の初代大統領には、B.エリツィン初代ロシア共和国大統領が就任。

 新生ロシア連邦2期目のエリツィン大統領の任期は2000年6月まででしたが、1999年12月31日の大晦日に突如早期辞任。エリツィン早期辞任の底流はやはり油価低迷でした。

 エリツィン初代大統領の早期辞任に伴い、ロシア憲法に従い当日、V.プーチン首相が大統領代行に就任。エリツィン大統領は自分の後継候補としてプーチン大統領代行を指名しました。

6-2.ロシア国家予算案遂行状況 (2025年期首予算案・修正案・1~10月度実績):

 2025年の露国家予算案遂行状況を概観します。

 2025年期首予算案想定油価(露ウラル原油)は$69.7でしたが、油価下落に伴い4月に$56に下方修正。9月には$58に上昇修正しました。

 しかし現行油価は$50台前半で推移しており、石油・ガス税収減少、さらなる財政赤字拡大は必至です。

 GDP実質成長率予測は期首2.5%、4月度修正案2.5%、9月度再修正案は1.0%です。しかし油価低迷により今年のGDP実質成長率はさらなる下落必至であり、インフレも実態は2桁と推測されます。

 ちなみに、IMF(国際通貨基金)の今年4月度WEO(世界経済見通し)ではロシアのGDP実質成長率予測は1.5%、7月度予測0.9%、10月度予測では0.6%に下落しています。

出所;露財務省統計資料より筆者作成
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 上記より、9月度再修正案は、期待ばかり先行したお花畑の予算修正案と言わざるを得ません。

6-3.ロシア国家予算案/2026~28年期首予算原案概観:

 本稿では、現在ロシア下院にて審議中の2026~28年のロシア期首予算原案を概観します。

 ロシア政府が策定する国家予算原案は下院総会にて3回審議・採択後、上院に回付され上院にて承認後、ロシア大統領署名を以て成立。翌年1月1日から執行されます。

 ロシア下院は採択、上院は承認、大統領は署名します(露語原文が異なるので、訳文も異なります)。

 ロシア政府は露下院に対し9月末、2026~28年国家予算原案を提出。国家予算原案は10月22日、下院総会第①読会にて審議・採択されました。

 露下院総会は11月18日開催予定の第②読会にて、2026~28年国家予算原案を審議します。11月18日に第②読会と第③読会が同時開催され、採択されるかもしれません。

 予算原案概要は公開されており、大筋では原案通り採択・成立することでしょう。

 今年ロシア政府が策定した2026~28年期首予算原案を一言で申せば、期待先行のお花畑の予算原案です。来年1月1日発効直後に、今年の2025年予算案同様、修正を余儀なくされることでしょう。

 理由はウラル原油の想定油価です。

 ウラル原油の油価は現在でも$50台前半で推移しており、油価趨勢は下落傾向ですから、来年の想定油価$59は非現実的です。

 EIAの2026年北海ブレント油価予測は$55ですから、現行値差$12が継続すると仮定すれば露ウラル原油は$43になります。

 換言すれば、政府は非現実的油価を承知の上で、予算原案を策定せざるを得なかったものと推測します。ではここで、2026~28年予算原案を概観します。


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 2025年期首予算案の赤字幅は1.173兆ルーブルでしたが、4月30日の修正案では3倍以上の3.793兆ルーブルの赤字額となり、9月の再修正案では5.737兆ルーブルの大幅赤字見通しになりました。

 ただし、現状の油価低迷を考慮すれば、今年の予算案最終赤字額は再修正赤字案を大幅に上回ることが予見されます。

 上述通り、今年11月1日現在の露国民福祉基金流動性資産残高は4.157兆ルーブルと発表されました。

 国家予算案が結果として赤字になると露国民福祉基金資産残高から赤字補填されることになっているのですが、現状では既に全額赤字補填は不可能です。

 プーチン大統領は「ロシア国内経済は順調である」と誇示していますが、実態は正反対と言えましょう。