第5部 ロシア国民福祉基金資産残高推移概観
ロシアには「国民福祉基金」が存在します。
これは一種の石油基金であり、もともとは「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました(創設者当時のA.クードリン財務相)。
この基金は発足時2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い2008年1月には1568億ドルまで上昇。
この安定化基金は2008年2月、「予備基金」と「国民福祉基金」に分割され、「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」(別名「次世代基金」)は年金補填用や優良投資案件等への融資・投資目的として発足。
分割時「予備基金」は約1200億ドル強を、残りを「国民福祉基金」が継承。
その後、「予備基金」の資金は枯渇して2018年1月に「国民福祉基金」に吸収合併された結果、国民福祉基金は国家予算案が赤字になった時の補填用財源にもなりました。
戦費流用は禁止されていましたが、開戦後ロシアは法律を改定して戦費流用を可能とし、今では戦費にも転用されています。
露財務省は11月10日、今年11月1日現在の露国民福祉基金資産残高を発表。なお、この資産残高は預貯金残高ではなくあくまでも資産残高にて、過去に投融資した(不良)資産等も含みます。
●2025年11月1日現在の国民福祉基金資産残高: 13.201兆ルーブル(GDP=国内総生産比6.0%/1640億ドル相当)
●そのうち流動性資産:4.157兆ルーブル(同1.9%/516億ドル相当)(参考:現在1ルーブル約1.9円)
11月1日現在の流動性資産(預貯金や金=Gold)は約3割、非流動性資産約7割。流動性資産の主要内訳は2091億人民元と金(Gold)173トン。
ちなみに、ウクライナ開戦前後の流動性資産残高は国民福祉基金資産残高の7割以上でしたが、2023年は5割に急減。2024年には約4割となり、今年に入り3割前後で推移しています。
下記グラフをご覧ください。結果として予算案赤字の場合、年末に流動性資産から赤字補填します。
今年の予算案赤字予測は5.737兆ルーブルです。ウクライナ戦争が続けば流動性資産では補填不可能となり、国家の借金増大・輪転機フル稼働を余儀なくされ、インフレ高進・経済弱体化に直結必至です。
流動性資産残高枯渇は主要戦費供給源激減・消滅を意味します。
現行の油価水準低迷が継続すれば、ロシア継戦能力は低下して、ほぼ戦闘不可能の状態が早晩出現することでしょう。
かつ、輪転機をフル稼働させることによりインフレ高進も顕在化・表面化して、プーチン大統領支持基盤の流動化も視野に入ってくるものと筆者は予測します。
