エピローグ/ロシア国益の流出

 筆者は時々、「プーチン大統領はロシアの国益を毀損していると言うが、具体的にはどの程度の金額を想定しているのか?」との照会を受けます。

 照会を受けた方には私見を披露しておりますので、ご参考までにここでも言及したいと思います。

 ロシア原油生産量は約10mbd。うち半分は原油として輸出、残り半分は国内石油会社が精製しています(mbd=百万バレル/日量)。

 国内で精製された石油製品は半分が国内で消費され、残り半分(主に軽油と重油)は輸出されています。

 上述通り、ウクライナ戦争前までは北海ブレントと露ウラル原油の値差はバレル$2前後でしたが、これは品質差に基づく正常値差でした。

 ウクライナ開戦直後、値差は一時期$40以上に拡大しましたが、現在でも$12前後の値差水準が続いています。すなわち、ロシアは1バレル当たり約$10も損していることになります。

 ロシアの原油輸出量は約500万bdゆえ、1日当たりの損失は約50百万ドル、1年で約180億ドル。ウクライナ戦争は既に4年近く続いているので、原油輸出のみでも700億ドル以上の損失になります。

 これは、ロシアの国益が海外に流出している構図です。

 ではどこに流出しているのかと申せば、ロシア産原油を輸入拡大している国々、具体的には主に中国とインドです。

 中国とインドの石油会社は、本来ならばロシアの石油会社に入るはずの利益を享受しているのです。

 換言すれば、中国とインドはロシアを経済支援しているのではなく、(結果として)ロシアを経済搾取していることになります。

「ロシアの国益」を標榜して2000年5月7日にロシア大統領に就任したプーチン大統領は、ウクライナ戦争の結果として「ロシアの国益」を毀損している姿が透けて見えてきます。

 ロシアにとり真に罪深きは、実はプーチン大統領本人と言えましょう。