営業現場で再び直面した男性との差

 イソノ運動具店で営業として採用された女性は、私が初めてです。パイオニアになったからには、ほかの男性営業マンと比較して私が劣っていたら、今後は女性が採用されにくくなるかもしれない。「やはり女性には難しい仕事か」と判断されたくない。2人目、3人目につなげるためにも、私が評価されないといけない──。そんな気持ちで入社しました。

 中学時代には男子選手に勝てなかった悔しさも味わいましたので、「男性の営業マンに負けてたまるか!」という気持ちでした。しかし、実際に仕事を始めてみると、再び男性との差を感じることになります。

 先輩たちは、みんな野球経験が豊富です。お客様を訪問すると、野球の深いところまで話しています。野球用品の知識も豊富だし、「あの試合のあのシーンは、どうだった」といったマニアックな話や、プレーに関する技術的な話もできます。

 それに比べて、私は野球経験があるといっても中学まで。野球用品の知識もそこで止まっています。マニアックな話題や技術の話についていけるほど、詳しくもありません。

 お客様の立場で考えると、女性の私が営業担当になるのは不安だろうな、「この人にわかるのかな」と思われるだろうな……と考えていました。

 そんな私を、会社の上司や先輩が親身になって、営業として育ててくださったんです。商談や納品などの仕事の進め方や商品知識を一から教わりました。

 そうしているうちに、ふと中学時代の恩師の言葉を思い出し、「あ、仕事も野球といっしょだ!」と気づいたのです。

 中学時代には男子と飛距離やスピードを競うのではなく、自分にできる小技でチームに貢献して、相手に勝つことを考えました。仕事でも、それと同じように考えればよかったのです。

 何よりも大事なのは、営業としてお客様に貢献すること。そのためには、社内の男性営業マンと競うのではなく、自分にできることをやって、自分の役割を果たせばいい。先輩たちはライバルではなく仲間。性別に関係なく、チームとして一緒に仕事をして、競合他社に負けないようにしよう──。そういうマインドに、完全に切り替わりました。