(写真:neenawat khenyothaa/Shutterstock)
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[ブラジル北部パラー州ベレン発]気候科学界で最も権威ある年次報告の一つ、『気候科学における10の新知見2025年度版』は気候システムの変化が加速し、自然吸収源や社会・経済リスクは限界に近づいている現実を示した。温暖化にブレーキをかける時間はもう残されていない。

 トランプ米政権がパリ協定再離脱を準備する中、行動の遅れがコストを雪ダルマ式に膨らませる。科学はもはや警鐘ではなく、実行のための羅針盤だ。国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)の成否は気候科学の知見をどれだけ政策に落とし込めるかにかかっている。

パリ協定の1.5度目標を超えるのはほぼ確実

【新知見その1】記録的高温と地球エネルギー不均衡の拡大

 23〜24年、世界の平均気温は観測史上最高を更新、産業革命前に比べ摂氏1.55度も上昇した。太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけ海面水温が平年より高くなり約1年続くエルニーニョ現象が原因の一つだが、それだけでは説明できない異常な温暖化が進行している。

 入射する太陽エネルギーと放出される赤外放射の差(地球エネルギー不均衡)が急拡大しており、地球はこれまでにない速度で熱を蓄積している。海洋や大気、氷床が吸収する余剰エネルギーは気温上昇を加速させ、パリ協定の1.5度目標を超えるのはほぼ確実になった。