炭素除去がまったく追いついていない現状
【新知見その8】炭素除去の安全な拡大が必要
気温上昇を1.5度に抑えるには、急速な排出削減と並行して炭素除去の拡大が不可欠とされる。だが現行の炭素除去能力は二酸化炭素換算で年間2ギガトンに満たず、森林火災や土地劣化による排出がそれを上回る。再植林や土壌炭素貯留は土地・水資源に負荷を与える。
DACCS(空気中の二酸化炭素を直接つかまえて地中にしまう技術)などの新技術はコストが膨大。報告書は、炭素除去を削減の代替ではなく補完手段と位置づけ、各国のNDC(国別削減目標)で削減量と除去量を分けて会計する透明な基準づくりを求めている。
【新知見その9】炭素市場の信頼性危機
急成長した自主的炭素市場は質の低い案件が横行し、気候対策への信頼を損なっている。発行済みクレジットのうち実際に追加的削減をもたらしたのは16%に過ぎず、多くは森林保全や再生可能エネルギー導入の「回避型」プロジェクトで過大計上が行われている。
企業が安価なクレジット購入で排出削減を代替することで実際の脱炭素化を先送りすることが懸念される。透明性の高い評価制度が導入されつつあるが、信頼回復には時間を要する。クレジットは排出の相殺ではなく、追加的な社会的貢献として位置づけ直す必要がある。
【新知見その10】政策ミックスの優位性
単独の政策より複数の政策手段を組み合わせた政策ミックスが排出削減効果を高めることが明らかになっている。炭素価格制度と補助金、規制を併用することで相乗効果が生まれる。
世界41カ国・1500件の政策分析では政策ミックスが平均19%の排出削減を実現していた。税制や補助金を組み合わせた例が最も効果的だった。政治的には炭素税導入への抵抗は根強いが、政策効果の実証と公平な再分配設計が受容性を高める。