「金麦」をビールに格上げする“奇策”で挑むサントリー
ビールの主戦場は、アサヒの「スーパードライ」、キリンの一番搾り、サッポロの「黒ラベル」といった、いわゆるスタンダード領域のビールだが、そこが手薄だったサントリーは2023年4月に「サントリー生ビール」(以下サン生)を発売。店頭価格が他社商品より安価な点も相まって販売を伸ばした。
「アサヒスーパードライ」
「サントリー生ビール」
サントリーでは2027年にサン生の販売数量目標を大台の1000万ケース(1ケース=大瓶20本換算)に置く。ほかのビールメーカーも自社の看板商品に次ぐ柱を確立するべく新商品を投入してきたが、1000万という数字はどのメーカーにとってもそう簡単ではない。
まず、アサヒが2021年から「アサヒ生ビール」(通称マルエフ)を発売。同商品は一度1986年に市場投入されたが、翌87年に出たスーパードライが大ヒットしたことで、限られた飲食店でのみ供されていた。つまり復刻商品だったわけだが、一定の支持を受けてスマッシュヒットとなった。
「アサヒ生ビール」
その後は前述したサントリーのサン生、次いでキリンの晴れ風と続いていくわけだが、いずれの商品も初速は消費者の試し買い購入も効き、そこからある程度はリピーターが増えて伸びるものの、年間販売1000万ケースの大台まではなかなか届かない。
例えば、サン生は今年1月から8月までの販売実績は約430万ケースで、単純な年間換算で言えば650万ケース前後ということになる。サン生に限らず、1000万ケースのハードルはかなり高いと言っていい。
サントリーは「ザ・プレミアムモルツ」(以下プレモル)やサン生のほか、糖質ゼロの「パーフェクトサントリービール」、それに第3のビールの「金麦」といった商品ラインアップだが、圧倒的なボリュームを占めるのは金麦だ。
金麦の今年1月から8月の販売実績は1885万ケースと、サン生との比較はもちろん、同期間のプレモルが822万ケースだった点を考えれば、第3のビールでトップブランドの金麦は、サントリーの屋台骨と言える。
第3のビールはこれまでの段階的な酒税引き上げで市場規模が落ち込む中、金麦はそのへこみが市場平均よりも少なく、踏ん張りを見せてきた。ただ、来秋にビール類の酒税が一本化されると今年以上に販売減となることは避けられない。
そこで繰り出した次の一手が、麦芽使用比率を50%以上に引き上げることで、2026年10月から金麦をビールへ“格上げ”することだった。
2026年に「ビール」へと“格上げ”するサントリー「金麦」(写真:共同通信社)
金麦のビールへの移行後、サン生との自社競合がどの程度起こるかはやや気になるが、前述したように金麦は販売数量が大きく、ビール化されても価格優位性はかなり維持されると目される。
物価高騰が止まらず節約志向がさらに強まる中で、ビールへの商品ジャンル変更という“飛び道具”的側面はあるものの、金麦がビール業界の勢力図を変える台風の目になるかもしれない。