ビールとノンアルコールビールの二兎を追う戦いへ
来秋の酒税一本化でビール市場がある程度活性化されるのは間違いないが、その波が息の長い大きなものになるかは疑問符も付く。原材料高などから各ビールメーカーは今年4月に値上げを実施しており、来年10月のビール値下げで値上げ分が相殺される程度というのが1つ。
2025年4月の値上げ前にビール類の駆け込み需要もあったが…(写真:共同通信社)
加えて苦みを敬遠する若年層のビール離れ、WHO(世界保健機関)によるアルコール規制強化機運、海外を中心にあえて酒を飲まないソバーキュリアス層の増加、健康志向の高まりや少子高齢化の加速……など今後も世界的にビール市場には逆風が吹く。
また「2050年代には酒類全体の市場規模が現在から半減するという試算もある」(サッポロホールディングスの時松浩社長)ことに加え、タバコや酒類は必需品でなく嗜好品のため増税対象になりやすい。将来はビールが再増税となる可能性もゼロではなく、ビールの拡販と同時並行で次の打ち手も必要になってくる。
そこで各社が注力するのが、市場規模が年々拡大してきているノンアルコールビールだ。以前はビールの代替商品として、クルマの運転時など、飲めない時に仕方なく飲むものという認識が強かったノンアルビールだが、スーパーの店頭でも「アルコールゼロ」と表示されたノンアル商品の棚は、以前より明らかに広がってきた。
ただ、2010年前後から登場し始めたノンアルビールは、甘味料などの添加物を使用している商品も少なくないせいか、海外のメーカーでは一般的な「一度ビールを醸造してからアルコールだけを抜く製法」によるノンアルビールに比べ、味が人工的で物足りないといった声が多かった。
そうした指摘も受け、アサヒが他社に先駆けて2024年4月に発売したのが「アサヒゼロ」だ。同商品は前述した脱アルコール製法を採用し、糖質は通常のビールより多めながら本来のビールの味わいに近くなり、昨年は販売数量目標を大きく超える結果となった。
価格的にも従来のノンアルビールより高めの設定となっており、ビールや発泡酒などと違って酒税がかかっていないことを考えれば、メーカーとしても粗利を高めに確保できる利点がある。
そこでアサヒゼロを追うべく、今年9月にサントリーとキリンから「本格」ノンアルビール商品が相次いで発売された。サントリーは「ザ・ベゼルズ」、キリンが「キリン本格醸造ノンアルコール ラガーゼロ」で、特にラガーゼロはアサヒゼロ同様、一度ビールを醸造してからアルコールを抜く製法だ。サッポロもいずれ「本格」ノンアルビールに参入してくるかもしれない。
サントリーのノンアルコールビール「ザ・ベゼルズ」(写真:共同通信社)
キリンビールの「キリン本格醸造ノンアルコール ラガーゼロ」(写真:共同通信社)
ただし、ザ・ベゼルズやラガーゼロは濃厚でビールに近い味わいや飲みごたえは実現しているものの、健康志向の高まりで添加物を敬遠する人も少なくないだけに、甘味料等の使用はやや気になるところだ。
各社の看板商品、例えばアサヒのスーパードライのノンアル商品は、2023年1月に欧州では発売されたが、日本ではまだ未登場。同社が2012年から発売している「アサヒドライゼロ」は、欧州で販売されているスーパードライのノンアル版とは別物で、脱アルコール製法でもない。
また、海外のノンアルビールは0.0%、日本では0.00%と、アルコール度数の表示に若干違いがあり、海外品はわずかながらアルコール分が含まれるのかもしれない。
ビールの脱アルコール製法で完全無添加、そしてスーパードライや一番搾りといった代表ブランドからノンアルビールが登場した時、初めてビールの“補完”ではなくノンアルビールとしての完成形が生まれそうだ。
今後は世界一のノンアルビール販売量を誇るハイネケンなど、海外の大手ビールメーカーと同様に、ビールとノンアルビールの二兎を追う戦いになっていくのではないか。







