若年層をターゲットにした新商品が好調なキリンだが…

 ビールメーカー各社が目下、照準を合わせているのは、来年10月の酒税改正だ。これまで2020年、2023年と2回にわたって実施された酒税改正だが、2026年はもう一段ビールの酒税が値下げ、発泡酒は値上げとなり、ビール類の酒税がついに一本化される。

 350ミリリットル缶あたりの税率が約54円に統一され、ビールは約9円値下げ、発泡酒・第3のビールは約7円値上げされる。それもあって、各メーカーはこの秋口からビールの拡販戦略に余念がない。

図:共同通信社

 ところが、シェア首位のアサヒは9月末、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)攻撃によって出鼻をくじかれた。生産から出荷、販売まで滞り、ビールに限らずグループの新商品発売が見送られたほか、11月12日に予定していた第3四半期決算発表も延期という事態となった。

ランサムウェア攻撃を受け混乱が続くアサヒビール本社(東京都墨田区、写真:共同通信社)

 今後はアサヒの10月から12月の第4四半期業績以降の下押し度合いがどの程度になるか懸念されるほか、キリン、サントリー、サッポロもアサヒの予期せぬ事態の余波で出荷調整を余儀なくされるなど、業界全体が混乱したままの状態となっている。

 アサヒビールファンのみならず、アサヒの商品を見かけたら“応援買い”する人も少なからずいるものの、今年は一旦、販売トップの座をキリンに明け渡すことになるかもしれない。

 そのキリンは、10月7日に発売したやや高価格帯の新ビール「キリングッドエール」の販売が、フルーティな味わいで支持を得て堅調な滑り出しを見せている。

「キリングッドエール」の発表会で登壇したキリンビールの堀口英樹社長(2025年10月7日、写真:共同通信社)

 同社では昨春発売した、ビールの苦みを抑えた「晴れ風」、さらに「一番搾り」の派生商品として今年から投入した「一番搾り ホワイトビール」も小麦麦芽を使用した柔らかな味わいにするなど、明らかにビール離れの若年層をターゲットにした新商品戦略を進めている。

「キリンビール 晴れ風」(写真:共同通信社)

 ただ、キリンもつまずきがないわけではない。同社が一時期までかなり腕まくりして力を入れていた「スプリングバレー」ブランドのクラフトビールが思惑通りに販売が伸びず失速し、代わりに前述の商品群で打ち返している印象もあるからだ。