高市政権の誕生で「スパイ防止法」制定にうけた動きが加速するか(写真:ロイター/アフロ)
高市早苗内閣の発足によって、「スパイ防止法」が政治の大きなテーマとなって急浮上してきました。制定に熱心な高市氏が新首相に就任したことに加え、自民党と日本維新の会の連立合意書でも2025年中の検討開始が盛り込まれたからです。スパイ防止法は1980年代に自民党が制定を試みたものの、野党や法曹界、学会などが「人々の日常会話も処罰の対象になり、密告・監視社会を生む」として強硬に反対し、実現に至りませんでした。そうした経緯も振り返りつつ、スパイ防止法とは何かをやさしく解説します。
「スパイ防止法」制定に向けた政治環境は?
第104代の総理大臣に選ばれた高市早苗氏は、それに先立つ自民党総裁選の公約にスパイ防止法の早期制定を掲げていました。石破政権下のことし5月には、自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会の会長として、スパイ防止法の導入検討を含む治安強化策を取りまとめ、提言書を石破首相に手渡しています。
首相に就任してからは、スパイ防止法の制定を公式に口にする機会は減り、国会で10月24日に行われた所信表明演説でも直接の言及はありませんでした。しかし、スパイ防止法制定に向けた政治的環境は、かつてないほどに整ってきました。
自民党と日本維新の会は、高市政権誕生の直前に結んだ連立合意書のなかで「インテリジェンス・スパイ防止関連法制(基本法、外国代理人登録法およびロビー活動公開法など)について25年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる」とうたいました。日本維新の会は高市内閣に閣僚を送り込まず、実質的には閣外協力の立場になっていますが、もともとスパイ防止法を推進する考えの政党です。
そして野党にも推進勢力はいます。
その筆頭は、国民民主党。同党は党内に専門のワーキングチームを作り、ことし9月には中間報告としてスパイ防止法の原案を公表しました。それによると、スパイ防止法は単体の法律ではなく、「外国勢力活動透明化法案」などいくつかの法律をパッケージにしたもので、「敵対勢力の不透明な活動から民主主義を防衛し、我が国の自由な意思決定を堅持する」と位置づけています。
政府・自民党によるスパイ防止法の法案が明らかになっていないこともあって、国民民主党はこの原案に基づく法案を近く国会に提出し、議論をリードしたい考えを見せています。
一方、参政党も「日本版『スパイ防止法』等の制定で、経済安全保障などの観点から外国勢による日本に対する侵略的な行為や機微情報の盗取などを機動的に防止・制圧する仕組みを構築」するとの政策を掲げています。
これらスパイ防止法に賛同する各党・会派の国会勢力は、衆院で261(自民196、維新35、国民27、参政3)を数え、定数465の半数を超えています。同様に定数248の参院は160(自民101、維新19、国民25、参政15)で、こちらも半分以上。仮に法案が提出されたらすんなりと成立に向かうように見えるかもしれませんが、事はそう簡単ではありません。
スパイ防止法は過去にも法案が国会に提出されながら、野党や法曹界、法学や歴史学の研究者、言論界らが猛烈な反対を表明し、廃案に追い込まれた経緯があるからです。
