盛岡市の中津川河川敷を移動するクマ=10月23日(写真:共同通信社)
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クマが人里や市街地に出没し、人間を襲うケースが後を絶ちません。環境省の速報値では、2025年度の死者は10月25日現在で10人に達し、史上最悪を更新しています。そんななか、市町村のゴーサインがあれば市街地でも発砲できる「緊急銃猟」制度が、この9月からスタートしました。「もう、戦争だよ」の声も飛び出す人間とクマの戦い。新制度はその決め手になるのでしょうか。やさしく解説します。

フロントラインプレス

2025年、クマに人はどれくらい襲われているか?

 クマによる人的被害は留まるところを知りません。

 環境省が公表している「クマ類による人身被害」(速報値)によると、2025年度は9月末までの半年間で99件の被害が発生。108人が被害を受け、このうち5人が亡くなっています。この時点で前年度の人的被害者85人(うち死者3人)を上回っていました。

 内訳を見ると、北海道のヒグマによるものが4人(死者2人)、本州でのツキノワグマによるものは104人(死者3人)。都道府県別では、岩手県の22人、秋田県の19人、長野県の15人が上位を占めています。

 被害は10月に入ってさらに増えてきました。クマに襲われて死亡したと思われるケースをまとめると、下表のようになります。

<表:2025年10月に入ってからの主なクマ被害>

表:フロントラインプレス作成

 最近のクマ被害は山里や山中だけではありません。学校や役場近く、住宅密集地など地元住民が「まさか、ここで?」と驚くような場所で起きているのも特徴です。

 秋田県では、湯沢市のJR湯沢駅近くの住宅街で10月20日、体長1.3メートルのツキノワグマが60代男性を自宅の玄関前で襲い、そのまま住宅に入り込んで6日間も居座るという異常事態が起きました。同じく10月の秋田県では、秋田市の県知事公舎近くの住宅街で、新築中の住宅にクマが入り込むケースも発生。さらに学校や幼稚園など子どもたちが通う施設の間近でも、再三にわたってクマの目撃情報が出ています。

 秋田県の「ツキノワグマ等情報マップシステム【クマダス】」によると、ことしに入ってからの目撃情報は5300件余りに達しています。しかも10月6日からの1週間で1000件を超え、まさに非常事態。秋田県で駆除されたクマは、ことしすでに1000頭以上を数えますが、それでも目撃情報は増え続け、住民の不安は募るばかりです。県議会では与野党を問わず、各議員から「子どもが犠牲にならなければ行政は動かないのか」「フェーズは変わった。もはや災害級。毎日のようにけが人が出ている」として、県に抜本対策を求める声が途切れません。

 そして、鈴木健太・秋田県知事は10月26日、自身のインスタグラムを更新し、「もはや県と市町村のみで対応できる範囲を超えており、現場の疲弊も限界を迎えつつある」として自衛隊派遣の要望を検討する姿勢を示しました。クマを駆除するための自衛隊出動を想定した法令は存在しませんが、そこまで事態は緊迫。鈴木知事は近く防衛省を訪問し、小泉進次郎防衛相に直接、窮状を訴える考えです。

 そんな深刻な状況下で「緊急銃猟」は始まったのです。