事故が起きたら責任は?緊急銃猟の課題
緊急銃猟の実施については、課題も指摘されています。その最たるものは、市町村が実施を委託するハンターの不足や高齢化です。
環境省の鳥獣関係統計によると、2019年度(直近の最新データ)には全国で約21万5000人に狩猟免許が発行されていました。そのうち、60代は約5万8000人、70代は5万6000人、そして80歳以上は1万人超。1980年度にはたった9%だった60代以上の割合が、実に6割に達しているのです。一方、20代、30代は合計で2割ほどに留まっています。
猟友会の全国組織である一般社団法人・大日本猟友会は「残念ながら、ハンター(猟銃所持者)の数は大きく減少してきています。これからも我が国の狩猟文化を持続し、後世に引き継いでいくためにも、狩猟や野生鳥獣管理を志す方は、是非猟友会に」(佐々木洋平会長)と呼び掛けていますが、狩猟は自然や動物、銃に関する専門知識に加え、訓練と経験を必要とします。猟銃の所持と保管にも一定の費用が必要で、そう簡単に乗り出せる分野ではありません。
緊急銃猟に対しては、現役のハンターから懸念も出ています。
最大の問題は、万が一、事故が起きた場合、発砲したハンターの責任はどうなるのかという点です。住宅街で実弾を発射すると、跳弾などにより人的・物的被害が出る可能性がゼロではありません。緊急銃猟の判断は行政が下すにしても、実際にどのタイミングでどう撃つかを決めるのはハンターです。それなのに、行政の要請に応じて出動したことで狩猟免許をはく奪されたり、業務上過失致死傷罪などに問われたりする恐れがあるのなら、おいそれと協力はできないというわけです。
実際、各地の猟友会では、こうした声が続出しており、行政側との調整が進んでいないケースも多数あります。ヒグマ駆除の最前線に立つ北海道猟友会は、緊急銃猟制度のスタートを前に、万が一の事故の際にはハンターの免責を保証するよう、北海道に要望しました。さらに、1回の出動で数千円程度の手当しか出ないことへの不満も、非協力の背後に横たわっています。
クマ被害は北海道や東北、北信越だけではありません。ことしの目撃情報は、東京都や神奈川県など関東一円(千葉県を除く)、静岡県や愛知県などの東海4県、京都府や滋賀県を中心とする近畿圏でも急増しています。それも住宅街やスーパー、学校や駅の周辺といった日常の生活圏にどんどん近づいているのです。緊急銃猟は対策の決め手になるのでしょうか。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
